日本データベース学会

dbjapanメーリングリストアーカイブ(2013年)

DBSJ Newsletter Vol. 6, No. 4: SIGMOD2013, VLDB2013


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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2013年10月号 ( Vol. 6, No. 4 )
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今年の十五夜は『満月』、しかも日本列島の広い範囲で観ることができました。
次に満月となる十五夜は8年後だそうで、今から待ち遠しく思います。

本号では、国際会議SIGMODとVLDBを取り上げますが、今までよりも幅広い話題提
供をお願いすることが出来ました。国際会議の参加報告、参加できなかった報告、
更には、トップ国際会議を効率よくレビューする「データベース勉強会」につい
てもご紹介いただきました。次回勉強会は、10月6日(日)にSIGIR2013との案内
も有り、ますます盛会となっていくこと期待しています。


本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見、あるいは次号以降に期待する内
容についてのご意見がございましたら、news-com [at] dbsj.org までお寄せください。

                                日本データベース学会 電子広報編集委員会

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目次
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1. SIGMOD 2013に参加して
    鈴木伸崇 筑波大学 図書館情報メディア系

2. 主要国際会議のレビュー「データベース勉強会」(SIGMOD編)
    天笠俊之 筑波大学 システム情報系
    
3. 「データベース勉強会」(SIGMOD編)に参加して
    山本光穂 株式会社デンソーアイティーラボラトリ 研究開発グループ

4. VLDB 2013 参加・・・そのはずが 〜海外出張ハプニング〜
    山本岳洋 京都大学 情報学研究科

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■1■ SIGMOD 2013に参加して            鈴木伸崇 (筑波大学 准教授)

2013年6月22日から27日にかけてSIGMOD 2013が開催されました。会場はニュー
ヨークの Millennium Broadway Hotel です。タイムズスクエアやロックフェ
ラー・センターにもほど近い好立地で、気品のある素晴らしいホテルでの開催
でした。参加者は昨年から大幅増の872名にものぼり、大変盛況な会議となり
ました。今回、私はACM SIGMOD日本支部による派遣のお話をいただいて、幸運
にもこの会議に参加させていただくことができました。  

私は面倒くさがりですので、これまで国際会議への参加は必ずしも積極的では
ありませんでした。しかし実際に参加してみると、想像以上に得られるものが
多く、大変有意義な経験をさせていただきました。今回のSIGMODの基調講演は
証券ビッグデータに関するもので、証券データの管理・分析システムに関する
実際的な話を聞くことができました。証券データの特性上、ごくわずかな間隔
で大量の売買注文データが発生しますので、それを遅延なく正確なタイミング
で処理することが必要となります。また、証券データの分析を効率よく行うた
めには、大量の時系列データを適切に格納・管理することが重要です。このよ
うな証券データに密接した課題とそれに対する対応策についての説明は、証券
について素人の私にとっても非常に興味深いものでした。また、SIGMODのパネ
ルでは Michael Stonebraker から、近年論文の過剰生産・インフレーション
が起きており、研究者の評価が研究内容のインパクトではなく論文数のみに基
づいて行われているという問題提起がありました。更に、SIGMODを始めとして
近年の国際会議は肥大化しすぎておりテーマも分散しすぎである、プログラム
委員会も規模が大きくなりすぎて議論の質が保てず、レビューの質が落ちてい
るという指摘もございました。その一方で、広く様々なテーマを受け入れる懐
の深さがDBコミュニティのよいところでもありますので、テーマ分散化の問題
とどのように折り合いをつけていけばよいか、真剣に考えていく必要があるよ
うに感じました。

上記の基調講演やパネルの他、研究セッション、インダストリセッション、
SIGMODと同時に開催されたPODSのセッションにも多くの興味深い発表があり、
非常に有意義な経験をさせていただきました。このような貴重な機会を与えて
くださったACM SIGMOD日本支部の皆様に心から感謝いたします。

(鈴木伸崇  筑波大学 図書館情報メディア系 准教授)

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■2■ 主要国際会議のレビュー「データベース勉強会」(SIGMOD編)
                                        天笠俊之 (筑波大学 准教授)

日時:2013年9月7日(土) 11:00〜17:30
場所:(株)デンソーアイティラボラトリ、名古屋大学、京都大学
勉強会URL: http://www.kde.cs.tsukuba.ac.jp/dbreading/

有志により、SIGMOD, VLDB, ICDE, SIGIR, WWWなどの、データベース、WWW、情
報検索分野のトップカンファレンスの論文紹介を行う自主勉強会を継続的に行っ
ており、今年で5年目を迎えました。今回は、9月7日(土)に、SIGMOD2013の勉
強会を行いましたので、その様子を簡単に報告させていただきます。

この勉強会は、自分の興味のあるセッションを一人、あるいは複数人で担当し、
セッション内の論文(3〜4編程度)の概要を、事前に準備したスライを使いな
がら10〜15分程度で簡単に紹介するというスタイルで行なっています。会場は
(回によって異なりますが)、東京、名古屋、京都に設け、それぞれをSkypeで
接続しており、参加者は最寄りの会場から参加することができます。
SIGMOD2013勉強会では、(株)デンソーアイティラボラトリ、名古屋大学、京
都大学で会場をご提供いただきました。さらに、各会場の発表の様子は
Ustreamでライブ配信するとともに、Ustreamの録画機能を使ってアーカイブも
行っています。

個人的に、本勉強会の良い点は関連分野の最新の研究成果を短時間で俯瞰でき
る点にあるのではないかと思っています。今回興味深かった論文としては、ま
ずDan Suciuのグループによる“Toward practical query pricing with
QueryMarket”が挙げられます。これはデータ売買のためのマーケットシステム
において、買い手の購買要求に対して最適な販売データの組合せを求める問題
を議論したものです。また、Michael J. FranklinやDavid A. Pattersonらによ
る“Generalized scale independence through incremental precomputation”
では、データのサイズ増加に対して問合せ処理コストが定数で抑えられる「ス
ケール独立性」という新たな性能指標について議論しており、興味を引かれま
した。

本勉強会には、大学関係者(教員、学生)だけでなく企業からも参加者がコン
スタントにあり、有益な交流・情報交換の場になっていると思います。一方、
この数年、参加者が固定化しつつあることが懸念されています。勉強会を継続
して盛り上げていくために、できるだけ多くの方にご参加頂ければと思ってい
ます。お近くに会場がある場合はぜひ会場に足を運んでみてください。発表な
しで聴講のみの参加も歓迎します。また遠方の場合は、Skypeの接続も可能です。
Skypeで遠隔参加を希望される場合もぜひご連絡を頂ければ幸いです。

次回は、10月6日(日)にSIGIR2013勉強会を予定しております。現在、担当セッ
ションの希望調査を進めているところです。みなさまの参加をお待ちしており
ます。

最後に、本勉強会の開催にさまざまな形でご協力頂いているみなさまに心より
御礼を申し上げて、報告を終わらせていただきます。

(天笠俊之 筑波大学システム情報系 准教授)

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■3■ 「データベース勉強会」(SIGMOD編)に参加して
       山本光穂 (株式会社デンソーアイティーラボラトリ シニアエンジニア)

私は今回SIGMOD2013勉強会に参加させていただきました。同勉強会に参加させて
いただく事によって得られたメリットとしては、
1.私自身の研究テーマがIR系ということもあり、普段触れることがない
  研究テーマにも触れる事ができた事
2.発表に参加された大学、企業の研究者の方々からSIGMOD2013で発表された
  論文とそれら周辺知識に関してご紹介いただけた事
3.私自身が車業界の研究所に所属しているという事?もあり、論文で紹介されて
  いる課題やその解決手法の車の世界に応用を考える事ができた事
という点があったかと考えます。

特に3.につきましては、今後の車社会においては、通信モジュールの標準搭載が
法的に義務化される等の社会的背景もあり、車とネットが常時接続される時代が
きます。例えばある調査会社の予測によると、2025年においては、コネクティッ
ドカー(ネット接続された車)の割合は全自動車市場の70%を占めると言われてい
ます。その際に車の中のデータがweb上に流れ、また、web上のデータが車の中に
流れるようになった時、ユーザにどのような安全・快適・利便をもたらす新しい
サービスをユーザに提供できるか、またどのような課題が発生するのか、を我々
車の開発研究に携わる人間は考える責務があります。

SIGMODで扱われるようなトピック、例えば大規模グラフ解析処理やセキュリティ、
プライバシ等のトピックで述べられている課題や解決手法は、将来の車社会にお
いても欠かす事ができない基盤技術として成り立つと考えます。そのような意味
からも我々車の開発研究に携わる人間は、SIGMODに代表されるデータベース系の
学会で発表される知見を理解し、また同コミュニティーとの交流を研究成果の発
表等を通じ積極的に進めるべきであると考えます。

(山本光穂 株式会社デンソーアイティーラボラトリ シニアエンジニア)

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■4■ VLDB 2013 参加・・・そのはずが 〜海外出張ハプニング〜 
                                        山本 岳洋(京都大学 特定助教)

2013年8月27日から29日にかけて、イタリアのリーヴァ・デル・ガルダにて開催
されたVLDB 2013 に参加・・・のはずだったのですが、フライトが途中で引き返す
というハプニングに遭遇してしまったため、29日の最終日しか参加できませんで
した。フライトの遅延に遭遇することはあっても、国際線でフライトが引き返す
というトラブルは今回が初めてでした。今後、海外出張される方や初めて海外発
表する学生に、海外出張はこんなトラブルもあるんだ、ということを知っていた
だければと思い、今回私が遭遇したハプニングの体験談を共有いたします。

当初のフライトは、26日の午前11時に関西国際空港を出発し、パリを経由し26日
の夕刻に会議近くのヴェローナ空港へ到着する予定でした。 午前11時に予定通
り関空を出発し、3時間ほど経過した頃でしょうか。機内アナウンスにて、「お
客様の中にお医者様はいらっしゃいませんか?」との放送が。私はこの放送を経
験するのは2度目だったので、その時はあまり深く考えていませんでした。する
と、さらに2時間ほどして「ご病気のお客様が緊急の事態を要するため、千歳空
港に引き返します」とのアナウンスが。この時点で、関空を出発して5時間ほど
経過しており、関空・パリ間の旅程の半分近くがすでに経っていました。「こう
いう場合、近くの空港に寄ったりするんじゃないの?」とか「そのまま目的地ま
で飛んだ方がいいんじゃないの?」とか機内は若干ざわざわしていましたが、フ
ライトはロシア上空で日本に引き返し始めました。その後、何度かアナウンスが
あり、当初予定されていた千歳空港ではなく関空まで引き返すことになり、朝11
時に関空を出発したフライトは夜の9時に再び関空に戻ってしまいました。

関空到着後、パスポートに出国取り消しというスタンプを押された我々は、航空
会社が手配してくれたホテルへと移動することになりました。関空周辺のホテル
は手配できなかったとのことで、私は神戸のホテルへ宿泊することになりました。
ホテルに到着したときには時計は12時を回っており、今後の予定が全く伝えられ
ないまま、詳細は明日の朝連絡するとだけ伝えられました。

翌朝、部屋に航空会社から電話がかかり、昼食をホテルでとってくださいとのこ
と。昼食では代替のフライトが深夜0時出発の便になることが伝えられました。
しかし、パリからヴェローナまでの乗り継ぎがどのフライトになるかは連絡が無
く、いつ現地に到着できるのか見通しが立たない状況でした。昼食後は、関空近
くのホテルにバスで再び移動し、フライトの時間までそこで過ごすということに
なりました。ホテル待機中に、航空券を予約していた旅行代理店の方から電話が
ありました。フライトが引き返したことを知ってくださったようで、私の現状を
気遣って連絡してくれるとともに、フライト変更後の乗り継ぎ情報を航空会社に
問い合わせてくださったようで、 航空会社から連絡されるよりも先に、旅行代
理店の方に詳しいフライト情報を教えていただくことができました。

最終的に、関空→パリ→ローマ→ヴェローナという旅程で、36時間遅れで関空を
再び出発しました。現地には予定よりも丸2日遅れての到着となり、VLDB 本会議
には1日のみ参加の2泊3日のイタリア出張となってしまいました。

今回のハプニングは、予防も対策もしようのない種類のトラブルだと思います。
ただ、一点良かった点としては、私は旅行代理店を通して航空券を予約したので
すが、その方は私の状況を把握していらしたので、最悪なにかあっても旅行代理
店の方がなんとかしてくれるだろうと安心することができました。一人で航空券
を確保していれば、もっと不安になっていたかもしません。また、機内アナウン
スであった急病の方ですが、変更後のフライトの出発時に、無事一命を取り留め
快方に向かっているとの連絡があり、乗客皆でほっとしたのを覚えています。

そんな1日しか参加できなかったVLDB2013ですが、会議はリーヴァ・デル・ガル
ダというガルダ湖の湖畔にある街で開催されました。避暑地なのですが、観光雑
誌に掲載されるような有名な観光地ではないため、適度に落ち着いたとても雰囲
気の良い場所でした。3日目は差分プライバシーに関するkeynoteや大学から起業
することの是非についてのpanel discussionなどが行われました。通常の研究発
表セッションでは、「Big Data」セッション内の「Making Queries Tractable
on Big Data with Preprocessing」や「Hadoop Adolecence」という研究が興味
深かったです。前者はBig Data時代において計算複雑性の考え方を捉え直した研
究で、後者は研究者がMap-Reduce技術を研究に活用できているかをCMUの
OpenCloudサービスを元に分析した研究です。

今回の出張にあたり、私は多くの人に助けていただきました。旅行代理店の方に
は、私の状況を随時確認していただき、心の支えとなりました。また、会議に到
着してからは、私が参加できなかった会議1日目2日目の情報を他の日本人参加者
の皆様からいただくことができました。また、そもそも今回私が出張できたのは
ACM SIGMOD日本支部による国際会議派遣によるものでした。このように多くの方
々からのサポートを受けて無事(?)VLDBに参加することができました。今回の
出張にあたり、支援をしてくださった皆様に心より感謝いたします。

(山本 岳洋  京都大学 情報学研究科 特定助教)

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