日本データベース学会

dbjapanメーリングリストアーカイブ(2015年)

[dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 8, No. 2: ICDE 2015, ICDE 2015勉強会,WWW2015, W2GIS 2015


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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2015年6月号 ( Vol. 8, No. 2 )
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急に暑さが厳しくなりました.さらには地震や火山活動など,今年はどうなって
いるのかと思う日々が続いております.そうとは言っても,新年度も2ヶ月が過
ぎ,環境にも落ち着きが見られているころではないかと思います.今年度の方向
性など固めつつ頑張っていきたいものです.

さて本号では、3つの国際会議に関するご寄稿と1つの勉強会報告を頂きました。
4月に行われた国際会議ICDE2015のご報告と,早速行われたそのICDE2015の勉
強会のご報告をご寄稿いただきました.両記事によりトップカンファレンスの
ICDE2015の様子が多面的に伺えます.また,6月13日(土)のSIGMODJ講演会
にてICDE2015の派遣報告もございますので,興味を持たれた方は足をお運びい
ただければ幸いです.他にも,5月に開催された国際会議WWW2015の開催報告,
同じく5月に開催された国際会議W2GIS2015の開催報告をご寄稿いただきました.
皆様のご参考になれば幸いです.

本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する内容
についてのご意見がございましたら news-com [at] dbsj.org までお寄せください.

                                日本データベース学会 電子広報編集委員会

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目次
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1. ICDE 2015に参加して
    若林 啓 筑波大学

2. ICDE2015勉強会開催報告
    渡辺 知恵美 筑波大学

3. WWW 2015に参加して
    白川 真澄 大阪大学

4. W2GIS 2015 に参加して
    若宮 翔子 京都産業大学

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■1■ ICDE 2015に参加して    若林 啓 (筑波大学 助教)

2015年4月14日から16日に韓国ソウルで開催された,データ工学分野のトップ
カンファレンスであるICDE2015に参加してきました.ソウルは羽田から2時間
程度の距離なので,移動は非常に楽でした.当日はあいにくの雨だったのですが,
急遽用意したのか,会議のregistrationで折りたたみ傘が配られました.他にも
「T-money」という韓国の交通ICカードや,ソウル市内のwifiスポットが使える
アカウントも全員に提供され,ローカルの運営に力が入っているのを感じました.

会議はCOEXという巨大な複合施設で行われました.参加者は600名超で,韓国か
らはもちろんですが,アジアからの参加者が比較的多かったのではないかと思い
ます.Research Trackの投稿数は409件,うち採録数は103件で,採録率は25%
でした.ICDEといえばデータベースコア技術に関する研究がメイントピックだと
思いますが,今年の採録論文の分野内訳ではグラフデータ,時系列・空間データ,
クエリ処理といった分野の投稿数・採録数が目立っており,データウェアハウスや
インメモリデータベースに関する論文の割合が(それなりにはありますが,)思っ
たより少なかったのが意外でした.Best Paperに選ばれたのも,ショートテキスト
の語義曖昧性解消を行う手法を提案するという自然言語処理分野の論文でした.

ICDEは他にもクラウドソーシングやソーシャルメディアのデータマイニングなど
のトピックも扱っており,幅広い分野の研究者が活躍できる可能性のある学会だ
と思います.ただ,データベース系の会議だけあって,採録されている論文には
実装上の工夫が詰められている論文が多いと感じました.たとえマイニングや自
然言語処理の論文であっても,オフラインで完了できる処理とオンラインで実行
する必要のある処理を明確に分離したり,インデキシングなどによる処理時間の
最適化,キャッシュヒット率を高める実装方法の議論など,キッチリ丁寧にやっ
ている論文が多いです.ICDEへの投稿を検討している方は,このような点を意識
すると採録につながりやすくなるのではないかと思います.

今回のICDE2015への参加は,ACM SIGMOD日本支部の国際会議派遣によるもの
です.数々の興味深い講演や発表が聞けたことに加えて,様々な研究者の方と話
をすることができたことは非常に刺激になりました.この場を借りて改めて感謝
を申し上げます.

また,6月13日(土)のSIGMODJ講演会において,今回の参加報告をさせて頂き
ます.Hector Garcia-Molina先生によるクラウドソーシングに関するKeynoteの
内容や,特に興味深いと感じたグラフやテキスト分野の論文など紹介する予定で
すので,是非お越しください.

      (若林 啓 筑波大学 図書館情報メディア系 助教)


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■2■ ICDE2015勉強会開催報告    渡辺 知恵美 (筑波大学 助教)

2015年5月16日にDB・IR勉強会コミュニティ(http://www.kde.cs.tsukuba.ac.jp/dbreading
勉強会を開催させていただきました. この勉強会はデータベースのトップ会議の
一つであるInternational Conference on Data Engineering(ICDE)の論文を1本
につき約5分程度で紹介し, できるだけ多くの論文をカバーするという趣旨の勉
強会です. 関東会場(デンソーITラボラトリ),名古屋会場(名大),関西会場
(京大)の3拠点ををSkypeでつないで開催しており,今回も様々な大学から
40名程度の方に参加していただきました. 

本勉強会では1論文につき4, 5分(今回は4分)で紹介するため, 概要をおおま
かに把握し動向を知ることが主な目的となります. 勉強会で聞いただけでは全容を
知ることはできませんが, 発表された論文の傾向や後でじっくり読もうという論文
を知ることができます. また各発表者が紹介する論文の背景にある基礎知識や経緯
などを補足してご紹介してくれるため,特に自分自身の研究分野と異なるテーマの
場合にも論文の内容だけでなく周辺知識のことまで知ることができるのは嬉しいこ
とです. 最近では分野を横断した論文が見られ, 情報検索や機械学習,OS基盤技術
などで提案されている技術をDBに適用する類の論文などはやはりそちらの分野に
精通されている方の補足があって大変助かっています. 

今回の勉強会で私が興味をもった論文は, J. Wangらの"Two Birds With One Stone:..."
という文字列データに対する類似検索で閾値ベース検索とTop-k検索両方で使える
索引構造(HS-Tree)を提案した論文や, K. Vesdapungらの"Identifying Users in 
Social Networks with Limited Information"という, あるSNSのアカウントから別
のSNSの同一人物のアカウントを限られた資源(アクセス回数, 時間)で発見する
方法で, どちらも自分の研究で参考にしたいという視点からの興味ですが, そうい
う論文に触れるきっかけになるのは嬉しいことです. 

ところで, 次回の勉強会から幾つかの会議をまとめた勉強会をしようと企画中です. 
また論文紹介の進め方についても現在ML上で議論中です. まだ未確定ではあります
が, おそらく8月あたりにWWW2015ともう一つデータベース系会議の勉強会を開
催する予定です. 現在MLに入るとその企画の議論から参加することができますので
もしよければグループにぜひ加わってください. 

      (渡辺知恵美 筑波大学 システム情報系 助教)


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■3■ WWW 2015に参加して    白川 真澄 (大阪大学 特任助教)

International World Wide Web Conference (WWW)は,Webに関する代表的な国
際会議であり,第24回目となる今年は,2015年5月18日から22日の間,イタリア
のフィレンツェで開催されました.総参加者数は併設イベントを含めて1567人(実
感としては一日あたり400人程度という感じでした),Research TrackのFull Paper
採択数は131/931(14.1%),Poster Paperは72/220(32.7%)でした.日本か
らのFull Paper採択数は4件で,去年の1件と比べると日本勢は善戦したのではないで
しょうか.Poster Paperも日本から3件ありました.

WWW 2015はたくさんのセッションが並列で進行していたので,あまり俯瞰的に会
議全体を見られていないのですが,Research Trackの全体的な傾向としては,ソー
シャルメディアは言わずもがな,クラウドソーシングや,セキュリティとプライバ
シーに関する研究が増えていました.これらは社会的にも注目されているテーマで
あり,Webの研究と社会との距離の近さを物語っているように思います.また,こ
れは去年以前からずっとそうだったのかもしれませんが,「人」に着目した研究が
非常に多いと感じました.Web上に起こる現象の多くは,元を正せば人が起こした
ものであり,人の行動や思考について深く考察することは,ほとんどのWebの研究
にとって不可欠であるといえそうです.一方で,流行りのDeep Learningを用いた
研究は少なかったです.精度云々よりも,取り組んでいる問題が新しくて面白いか
どうかが重視されているようです.といってももちろん,アイデア一点突破な論文
はなく,どの論文もアイデアを実現する手段や評価方法などに抜かりがありません.

別の側面からみてみると,企業,あるいは大学と企業との共同研究(インターンか
もしれません)による論文が少なからぬ数を占めていました.Webの研究は,研究
に必要なデータの入手が大きな障壁となっており,大学だけでは手の届かない領域
が多いように思います.しかし,大学だからこそできる研究もあると私は思います.
今回私が発表した研究(N-gram IDF)は,語の大域的重み付けスキーマであるIDF
と,コルモゴロフ複雑性に基づく情報距離との関係性を明らかにし,IDFの複合語へ
の理論的な拡張を可能にしたという内容ですが,この研究は,アカデミックならで
はだと思っています.大学のメリットの一つは,企業が注目して「いない」テーマ
に,たっぷりと時間を費やせることです.今回の研究の基になるMultiword _expression_
というテーマについて考え始めた頃(今から2年前ぐらい)は実は何も見えていませ
んでしたが,それでもこの研究に時間を費やせたことが,最終的にN-gram IDFの発
見につながったのだと思います.

会議は他にもPoster Track, Demo Track, Web Science Track,Industry Track, 
Ph.D. Symposium, W3C Trackなど盛りだくさんでしたが,Poster TrackとDemo 
Track以外は並列で進行していたため,あまり見に行けませんでした.ワークショ
ップやチュートリアルなども18並列で行われ,さすがに影武者を総動員しても見
に行けない状態でした.また今年から,過去のWWWで発表され,長期間にわたっ
て世の中に影響を与えた論文に贈られるTest of Time Awardという賞が導入されま
した.記念すべき第一回は,当然というべきか,WWW 1998に発表された,Sergey 
BrinとLarry Page(著者名はLawrence Pageでした)によるPageRankの論文「The 
Anatomy of a Large-Scale Hypertextual Web Search Engine」でした.

来年のWWWはカナダのモントリオールで開催されます.皆様ぜひ投稿を検討されて
はいかがでしょうか.

      (白川 真澄  大阪大学 大学院情報科学研究科 特任助教)


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■4■ W2GIS 2015 に参加して    若宮翔子(京都産業大学 研究員)

5月21日から5月22日にかけてフランスのグルノーブルで開催されたWeb and Wireless 
Geographical Information Systems (W2GIS) 2015に参加し,論文発表を行ないま
した.W2GISはWeb + GIS, Wireless + GIS を中心に,地域情報検索や実空間指向デ
バイスなど,幅広いトピックを対象とした会議です.2001年に京都で第一回が開催
され,その後ヨーロッパとアジアで開催されています.

今年の開催地であるグルノーブルはフランスの南東部にある都市で,リヨン市内から
は電車で1時間半ほど,リヨン空港からはシャトルバスで1時間ほどのところにありま
す.アルプス山脈の麓,イゼール川沿いにあり,周辺が大きな岩山に囲まれており,
その景色の壮大さに圧倒されました.観光名所はそれほど多くなく,某ガイドブック
には見開き半ページしか情報が載っていませんが,街の人は親切で治安も悪くありま
せんでした.会場はグルノーブル大学キャンパス内のMaison Jean Kuntzmannのア
ンフィシアターでした.市内を走っているトラムがキャンパス内にも乗り入れている
ので,アクセスは便利でした.

会議は4つの一般発表セッションと2件のキーノート講演から構成されていました.
日本からの発表は2件でした.HCIの研究をされているProf. Johannes Schöningの
キーノートでは,Web + GIS, Wireless + GISの新しい方向性について2つのテーマ
を紹介されていました.一つは近年のLBSN (Location-Based Social Networks) に
見られる実空間でも人と人をつなげようとする方向性に疑問を投げかけ,ハイキング
などリラックスしたいときにあえて人と出会わないルートを推薦するアプリの開発に
ついて,もう一つは,既存の場所に関する標識(交通標識や禁止標識など)を分析し,
場所使用ルールをマイニングして実空間にマッピングするシステムについて話されて
いました.前者に関しては,少し極端で特定のコンテキストに依存するアプローチな
ので会場でも若干賛否両論あるような雰囲気でした.Prof. Mark Grahamのキーノート
では,主にWikipediaデータを地理的な観点で分析・可視化した結果を報告されてい
ました.例えば,どこの国の人がどこの国のWikipedia記事を編集しているかに基づ
く国間の関係性の可視化などは興味深かったです.

W2GISは採択率も高めで参加者も40名ほどと,難関でも大きな会議というわけでは
ありません.しかし,速報性の高い研究発表を聞くことができますし,小規模です
が会議のトピックについて専門性の高い研究者が集まるので,質疑やコーヒーブレ
イクの時間などに活発で濃い議論が行なわれ,交流も活発になるというメリットも
あると感じました.実際に各発表につき平均5〜6件の的を射た質問やコメントが出
ていました.

2016年の開催地や日程については検討中とのことですが,2017年は日本で開催さ
れる予定です.論文集は Springer の Lecture Notes in Computer Science として
刊行され,優れた論文については論文誌への推薦もあると聞いておりますので,論文
投稿もご検討いただければと思います.

      (若宮翔子 京都産業大学 コンピュータ理工学部 研究員)

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Daisuke Kitayama
Interactive Media Lab.
Department of Computer Science
Faculty of Informatics
Kogakuin University
Assistant Professor, Ph.D
+81 3-3340-2683
kitayama [at] cc.kogakuin.ac.jp

北山大輔
工学院大学 情報学部 コンピュータ科学科
インタラクティブメディア研究室
助教 博士(環境人間学)
03-3340-2683(内線:2814)
kitayama [at] cc.kogakuin.ac.jp