日本データベース学会

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[dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 11, No. 2: 日本データベース学会受賞特集号


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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2018年5月号 ( Vol. 11, No. 2 )
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目次:日本データベース学会受賞特集号
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1. 日本データベース学会功労賞
1-1. 日本データベース学会功労賞を受賞して
  安達 淳(国立情報学研究所 教授/副所長)

2. 日本データベース学会若手功績賞
2-1. 日本データベース学会若手功績賞受賞にあたって 〜コミュニティとその励み〜
  上田 真由美 (流通科学大学 教授)

2-2. 日本データベース学会若手功績賞受賞にあたって 〜コミュニティは持ちつ持たれつ〜
  河合 由起子 (京都産業大学 教授)

2-3. 日本データベース学会若手功績賞受賞にあたって 〜初心忘れるべからず〜
  馬 強 (京都大学 准教授)

2-4. 日本データベース学会若手功績賞受賞にあたって 〜学会活動の楽しみ方〜
  山口 実靖 (工学院大学 准教授)

3. 日本データベース学会上林奨励賞
3-1. 日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜かろやかに、しなやかに〜
  荒瀬 由紀 (大阪大学 准教授)

3-2. 日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜知恵は多い方がいい〜
  馬場 雪乃 (筑波大学 准教授)

3-3. 日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜真剣勝負のその先へ〜
  山本 泰生 (山梨大学 助教)

4. 編集後記
  北山 大輔 (日本データベース学会 電子広報編集委員会 担当編集委員)
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■1■ 日本データベース学会功労賞

日本データベース学会功労賞は、我が国のデータベース、メディアコンテンツ、情報
マネージメント、ソーシャルコンピューティングに関する科学・技術の振興をはかり、
もって学術、文化、ならびに産業の発展に大いに寄与された日本データベース学会の
会員の功労を賞するためのものです。

表彰規定や歴代の受賞者は以下のWebページからご確認いただけます。
日本データベース学会功労賞:http://dbsj.org/overview/award/#award_02

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■1−1■ 日本データベース学会功労賞を受賞して   安達 淳 (国立情報学研究所 教授/副所長)

この度、日本データベース学会から功労賞をいただきました。大変光栄なことで心からう
れしく思っております。私は学会では監事を務めた程度でわずかな貢献しかしておりませ
んが、一方学生の研究発表や論文投稿で学会にはずいぶんお世話になっております。この
場を借りて御礼申し上げます。自分の仕事を振り返りますと、主に学術情報データベース
の構築とサービスで実務的な貢献をしたいと思い、努力してきました。時代的にもネット
ワークやデータベース、そしてウェブの隆盛期で、充実した活動ができたタイミングでし
た。実用サービスで少しでも学生や研究者に貢献できたことが大変幸運で、私の誇りでも
あります。

さて、最近はサイバーフィジカルシステム (Cyber-Physical System, CPS) の研究開発に
いそしんでおります。今回授賞式の際の講演で、この活動に関する話をさせていただきま
した。

実世界 (フィジカル空間) の事象を多様なセンサーなどを通して情報空間 (サイバー空間)
に集約し、その分析結果から実世界に対して適切なフィードバックをすることによって実
世界の課題解決を目指そうというのが、CPSの目標です。我々のチームは、特に社会システ
ムの効率化を目指した「ソーシャルCPS」を提案しています。我々はこの一般形をIT統合
基盤技術と呼んで、実証的な研究活動を続けてきました。

2012年から2017年3月まで続けた共同研究では、私の所属するNIIだけではなく、北大の
田中譲先生、阪大の東野輝夫先生、九大の谷口倫一郎先生のグループと一緒にセンシング、
データ解析、シミュレーションからシステム構築まで一緒に活動しました。このプロジェ
クトでは実際に役立つ実証実験も行うよう強く要請されていました。その一つとして取り
上げたのが、札幌市で行った冬期の道路の除排雪作業の効率化です。札幌市では毎年150億
円の経費をこの作業のために用意しています。それを少しでも減らそうと言うのが素朴な
狙いになります。しかし社会システムでは様々な要因が絡み合っており、その分析が容易
ではありません。田中先生のチームは探索的可視化環境を実装し様々なデータを可視化し
何が原因で渋滞が起こるのかなどの分析環境を実現しました。また、東野先生チームは交
通シミュレーションで、谷口先生チームはドライブレコーダの画像解析で、そしてNIIチー
ムはクラウドソーシングやデータベースプラットフォームの構築で開発を行い、その成果
を持ち寄って実用に供せることのできる手法を提案することができました。

CPSの目的は、データ解析を行った結果をフィジカル空間にフィードバックすることです。
残念ながら、除排雪のような社会活動では実際にフィードバックを行ってどの位効率化で
きたかを実証するのは不可能でした。そのためには他の多くの手続きが必要です。この実
証では札幌市からの多大なご支援とご協力を得て開発や実験をすることができました。こ
の協力関係は現在でも続いております。なお、我々の勘では、10%程度の効率化は十分実
現できそうだと思っております。

さて、今後ITが社会の中で果たす役割はますます大きくなり、また普通のことになると
思います。我々のソーシャルCPSの研究開発は、ITと社会の関わりの近未来の形を提案する
ものであると考えています。日本データベース学会の若い研究者が様々な切り口から社会
システムの中で機能するITの実現を目指し、研究の幅を広げていっていただきたいと期待
しております。

功労賞をいただけまして、誠にありがとうございました。

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■2■ 日本データベース学会若手功績賞

日本データベース学会若手功績賞は、本会の活動に多大なる貢献をしてきた若手会員を
賞するもので、本会の対象とする研究分野において優れた実績を有する場合もその対象
となります。

表彰規定や歴代の受賞者は以下のWebページからご確認いただけます。
日本データベース学会若手功績賞:http://dbsj.org/overview/award/#award_03

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■2−1■ 日本データベース学会若手功績賞受賞にあたって 〜コミュニティとその励み〜  上田 真由美 (流通科学大学 教授)

この度は、日本データベース学会若手功績賞という大変名誉な賞を頂くことができ、誠に
光栄に存じます。ご推薦くださった先生方をはじめ、イベント運営にお声がけくださった
先生方、イベント運営時に助けてくださった皆様方に、この場をお借りして深く御礼申し
上げます。

また、初めて学会発表をすることになった時に、在外研究で滞在中のアメリカから国際電
話 (当時はメールとFAXと国際電話でした) で「頑張っておいで!」と励ましてくださった
故上島紳一先生、「懇親会にも参加して、全国に友達を作ってきなさい!」と送り出して
くださった矢島脩三先生に感謝いたします。

先生方に励まされて一人で参加した夏のDBWSやDEIM (当時はDEWS) で、いろいろな先生方や
同世代の研究者の皆さんと知り合うことができました。特に、当時は、学内に女性の先生
や女子学生が多くなかったので、DBWSやDEWSなどに参加して、多くの女性研究者にお会い
することができ、次の学会発表へのチカラとなったのを覚えています。また、学会運営に
参加する機会を得てからは、多くの先生方と協力してイベントを運営することで、研究室
に閉じこもっていてはできない様々な経験と、幅広い人脈を作ることができ、今後の教育・
研究活動を進める上で欠かすことのできない財産を得ることができました。

多くの先生方のご尽力で、近年、データベース・データ工学分野のイベントには女性研究
者や女子学生が増えてきていると思います。しかし、まだ男性の方が圧倒的に多いのでは
ないでしょうか。今回、若手功績賞をいただけたことで、今後は女子学生や女子生徒のよ
いロールモデルとなれるよう、楽しみながらもしっかりと研究や学会運営に取り組むこと
が私の役割と考えております。まずは、この分野の研究は、肉体的に女性には厳しい…と
いったことはなく、女性の強みを活かすことができるテーマがたくさんあることを多くの
人に知っていただくことでしょうか…。

今後ともDBコミュニティ発展のため尽力して参りたいと思いますので、もしもお仕事を
お願いすることがございましたら、笑顔でご協力くださいますようお願い申し上げます。

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■2−2■ 日本データベース学会若手功績賞受賞にあたって 〜コミュニティは持ちつ持たれつ〜  河合 由起子 (京都産業大学 教授)

この度は日本データベース学会若手功績賞を頂戴し、誠に光栄でございます。ご推薦くだ
さった方々をはじめ、学会の皆様に心より感謝申し上げます。

さて、まだ研究発表の際に手押しベルを座長がチリンと鳴らしていた時代ですが、ある会
議で近くにいらっしゃった実行委員の方が「会議準備が大変で、最近研究全然できてない
わ~」とおっしゃられていたのを耳にしました。当時、一発表者で一参加者にすぎない私
は、このような素晴らしい運営をボランティアでして下さっていることにとても感謝し感
動しました。一方で、研究活動が犠牲になるぐらい大変なことなんだ、と当時は他人事の
ように思っておりました。

月日は流れ、呼び鈴がiPadタイマーになり、私も二児の母親になりましたが手押しベルの
時代とは少し違うフレーズで、「子育てが大変で!」というのを男女問わず耳に するよう
になりました。しかしながら、学会運営と子育ての両方に共通して、逆の「研究が大変で!
全然できてない!」とはあまり聞かないのですが、皆様いかがでしょうか?どちらかがエ
クスキューズでどちらかがプライオリティが高いからでしょうか?

実行委員と親との両方を経験させて頂いた立場から思うことは、共に多くの方々の支えが
あったから成り立った (どうにかできた) ということです。ただ、「皆様のご支援のお陰
で研究との完全両立ができました!」とまでは言い切れず、残念ながら私のリアルは偏り
だらけでエクスキューズだらけですので両立にはほど遠いです。しかし「もし実行委員を
していなければ、もし子育てをしていなければ、もっと素晴らしい研究成果を出せたかも
しれない!」...とは微塵も思いませんし、正直、大して変わらなかったと思います (笑)。
逆に、学会参加者の方が活発に議論し、講演や発表を楽しんで頂けることで学会皆様の研
究活動の支援につながるなら、その方がずっと個人的にもコミュニティ的にも効率性や生
産性が高く喜ばしいことだと思います。それに個人的には学会活動を通して、様々な方と
出会え、学び、協力し合い、そして助けて頂いたことに心から感謝するばかりです。とは
いえ委員の負荷が偏ったり、無駄に負荷を発生させないに超したことはないと思いますの
で、今後AIとやらで学会運営の最適解を導き出してくれることを密かに期待しております。

ある会議で委員の先生が「DB学会に育ててもらったので今は恩返しやねん」とおっしゃら
れておりました。私も学会と研究活動にこれからも共に励み、AIにはできない部分でDB
コミュニティに貢献 (恩返し) できるよう、学習し続けて参りたいと思いますので、引き
続き今後とも皆様ご指導、ご支援頂けますよう、どうぞ宜しくお願い致します。

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■2−3■ 日本データベース学会若手功績賞受賞にあたって 〜初心忘れるべからず〜  馬 強 (京都大学 准教授)

このたび、2017年度日本データベース学会若手功績賞をいただき、どうもありがとうござ
います。ご推薦・ご選考していただいた先生方、そして、日本データベース学会の皆さま
には心より感謝申し上げます。

私がデータベースコミュニティにデビューしたのは、1998年にあわら温泉にて開催さ
れた夏のデータベースワークショップでございます。記念すべきデビュー20周年の時に、
再びこのあわらの地で、データベースコミュニティからこの賞をいただいたことは、この
上なく光栄に思っております。さらに、今年はDEIMの10周年でもあり、節目の年に賞を
いただいたことは大変うれしく思っております。

日本データベースコミュニティの最大な強みは、国籍・性別・年齢・所属・分野などあら
ゆる垣根を超えた多様性にあると思います。DEIMなどの学会運営やデータ工学特集号など
論文誌の編集活動を通して、日本データベースコミュニティにおける研究活動の活発さや
研究者の個性の豊かさにいつも感心しております。皆さまの懐の深さによって、このよう
な多様性の高い日本データベースコミュニティを築いてきたと思います。このデータベー
スコミュニティの一員であること、そして、微力ながら貢献させていただいたことは大変
光栄でございます。

若手功績賞を受賞して若手を卒業するとよく言われますが、今でも第一線でご活躍されて
いる増永先生やRakesh博士に見習って、初心忘れるべからずこれからも若手のこころで頑
張っていきたいと思います。私自身は、現在、社会情報学を専門に、WebやUGCを対象とし
た、現場や利用者の生の声から社会活動に関する知識の発見とその利活用について研究を
しております。持続可能な観光を実現する観光情報学2.0、エビデンスベースの投資情報学
や情報の多様性を探求する情報栄養学について研究を行い、日本データベースコミュニティ
のさらなる発展に貢献できるように頑張りたいと思います。今後ともよろしくお願いしま
す。

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■2−4■ 日本データベース学会若手功績賞受賞にあたって 〜学会活動の楽しみ方〜  山口 実靖 (工学院大学 准教授)

このたびは、日本データベース学会若手功績賞を頂きまして、大変に光栄に思います。

この様な賞をいただけましたのは、研究者として私を指導していただきました東京大学 喜
連川先生、お茶の水女子大学 小口先生、学会運営についてご指導をいただきました 九州
大学 牛尼先生、データベースコミュニティの方々を紹介していただきました 神奈川工
科大学 大塚先生、これまで研究や学会活動についてお世話になってきました本コミュニティ
の皆様のおかげでございます。深くお礼を申し上げます。

私の研究テーマ (ストレージ) は、必ずしも本コミュニティの中心的な話題ではなく、他
のコミュニティにも投稿できるものです。そのような中で私が好んでデータベースコミュ
ニティに投稿している理由には、議論の質や活発性の高さの様な本質的なものの他に、仲
間がいるからといったものもあります。感情的な理由も含めてデータベースコミュニティ
に参加している私にとりまして、コミュニティの側からご評価をいただけたことは本当に
嬉しいです。今回の受賞を契機に、中心的ではないという考えを改め、多くの本テーマに
関わる人を本コミュニティに連れてくることが私の使命であるとの考える様にしたいと思
います。

最初に、会議の運営をさせていただいて感じたことを書きます。これはデータベースコミュ
ニティの方々だけかもしれませんが、実行委員の方々は会議の運営にとても情熱を持って
いらっしゃいます。単に「必要だから」とやっているのではなく、何とか改善しようと努
めていらっしゃいます。自分の本業もあり非常に忙しいはずなのに、この努力には頭が下
がります。自分が過ごしてきた学会や会議への愛着や恩返しの気持ちや、自分を育ててく
れた学会や会議で他の方や後輩が成長して欲しいというコミュニティへの愛着を感じます。
もちろん、これからも自分が過ごしていく学会や会議を良くしていきたいとの気持ちもあ
るでしょう。あるいは職業柄改善欲求が強いというものあるかもしれません。いずれにし
ろ、この様な情熱的な運営組織の中で活動は、私のモチベーションの向上に大きく寄与し
てくれました。

学会の運営活動に参加することには、いくつかの面白さや利点があります。運営委員は概
ね、シニアや中堅の偉い先生と、非常にアクティビティが高い若い先生や研究者で構成さ
れています。これらの方々と交流できることは大変に大きな財産となります。皆様、研究
や学会運営で活躍している方々で、私から見るとあこがれの方々です。これらの方々は、
研究者として有能なだけでなく、人格的にも大変に立派な方々です。これはお世辞ではあ
りません。人にものを頼むときは大変に低い腰で丁寧にものを頼みます。私が依頼された
ことを正しく実行すると驚く程に丁寧に個人宛で (しかも高い確率で口頭で) お礼を言っ
てくださいます。研究活動における大変に強気な姿勢と、運営業務をこなす人への感謝の
念の両方を正しく持っていらっしゃいます。これらの方々との交流は未熟な私の考え方に
大きな影響を与えてくれました。

運営を手伝ってくださる学生さんについても書いておきたいことがあります。それは、学
会にいらっしゃる学生さんは極めて優秀ということです。会議の運営は、学会メンバーが
主として行いますが、運営のヘルプに業者の方に来ていただくことも多いです。そして、
アルバイトの学生にも手伝ってもらうことが多いです。両者に学会運営について説明をし
ますが、驚くべきことに、学会運営経験のないアルバイト学生の皆さんは運営などを専門
とする業者の方々に負けないあるいはそれを超える力で物事を理解してくれます。責任の
話がありますので、お金の管理などは任せられないですが、能力だけで考えたら学生さん
だけで十分あるいは学生さんの方が上と言えるほどです。

会議の座長を引き受けるのも楽しいものです。引き受ける利点の一つはもちろん、その話
題について勉強をすることになり、強制的に研究感や知識のアップデートが行われること
です。しかし、それだけではありません。座長として議論に参加することは楽しいです。
また、座長をこなしていると予想外に人に名前を覚えてもらえます。初対面の方が座長を
やっていた私を知っていてくださったこともあります。座長をやる上で、教育者の目線で
気をつけていることがあります。それは学生に発表を楽しんでもらい、また学会に来たい
なと思ってもらえる様にすることです。若い学生は、難しいことに挑戦すればどんどん成
長します。学生をエンカレッジし、学生さんの成長を加速すれば、将来的にはコミュニティ
の大きな財産になるはずです。研究議論をするなら、座長はそれを楽しむべきであり、楽
しそうにやるべきであると考えております。そうすれば、学生さんにも楽しんでもらえる
ことかと思います。

査読も楽しいものです。未経験の方には、査読を是非お引き受けいただきたいです。まず、
審査する側に回って考える経験が論文を書く上でとても重要です。査読をすると、査読者
として当然考えるべきこと、指摘すべきことが見えてきます。すると、以前は何故査読者
はこんな変なところに注目するのか理解できなかったのが、良く理解できるようになりま
す。また、自分が査読をする立場にあっても、知らないことは多いはずです。読めば必ず、
勉強になるでしょう。議論の進め方が下手で理解しづらい場合は、それをコメントで指摘
せねばなりません。何故下手かをまとめるのは良い勉強になるでしょう。誤記や手抜きが
あったら査読者にどの程度ネガティブな印象を持たれてしまうかもよく分かるでしょう。
自分が苦しめられた査読者がなぜあんなにも厳しいのかも分かるかもしれません。査読の
依頼は知らない人から突然来ることも多いです。こんな自分を探してくれたことに感謝し、
自分もこのテーマでは信頼されるほどの人間になれたことをうれしく思います。そして、
頼んだ方は結構頼んだ相手を覚えてくれているもので、後に名刺交換すると「あのとき査
読をしていただいた」と、感謝されることもあります。メタ査読者は、多くの場合査読者
探しに苦労しているかと思います。皆様には、積極的に査読を引き受けていっていただき
たいです。

最後に、行なった回数が多い「会議の受付担当」について個人的な感想を書きます。受付
担当の仕事は主に、来場者の受付作業と、その他です。前者もなかなか大変です。会議
によりますが、参加者の種類がかなりの数になることもあります。しかし、受付担当の本
当の仕事は後者の「その他」かもしれません。会議を運営しているとどうしても例外的な
事象を考えざるを得なくなります。すると、多くの場合は「仕方が無いので、これが発生
したら受付で個別対応することとする」という結論になります。また、参加者は分からな
いことがあると当然受付に質問に来ます。この、多数の例外を含む網羅性の高さが、受付
担当の醍醐味です (かも知れません)。

今回はこの様な賞をいただき、ありがとうございました。今後もコミュニティの発展に貢
献に務めて参りたいと思います。今後ともご指導のほど、よろしくお願いします。

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■3■ 日本データベース学会上林奨励賞

上林奨励賞は、故 上林弥彦 日本データベース学会初代会長のご遺族からご寄贈頂いた資
金を活用し、データベース、メディアコンテンツ、情報マネージメント、ソーシャルコン
ピューティングに関する研究や技術に対して国際的に優れた発表を行い、かつ本会の活動
に貢献してきた若手会員を奨励するためのものです。

表彰規定や歴代の受賞者は以下のWebページからご確認いただけます。
日本データベース学会上林奨励賞:http://dbsj.org/overview/award/#award_04

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■3−1■ 日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜かろやかに、しなやかに〜  荒瀬 由紀 (大阪大学 准教授)

この度は名誉ある上林奨励賞を授賞いただき、誠にありがとうございます。ご推薦くださっ
た方々、日本データベース学会のみなさまに心より感謝申し上げます。このような賞をい
ただけたのは、ひとえにこれまでご指導いただいた先生方、共同研究者のみなさん、イン
ターン・学生のみなさんのおかげです。これまでの研究生活を振り返ると、本当に人の縁
に恵まれていました。2010年に大阪大学で博士号をいただいた後、就職したMicrosoft 
Research Asiaでは、まったく新たな分野である自然言語処理に取り組むことを選びました。
素人にもかかわらず、暖かく迎え育ててくれた自然言語処理グループの面々のおかげで、
何とかこの分野で食べていけるようになったと自負しています。

研究者として生きていく上で、私が目標にしていることに「かろやか」であることと「し
なやか」であることがあります。先ほど就職後に新たな分野に取り組むことを決めたと書
きました。もともと人の認知や思考の仕組みに関心があり、それらについて大きな役割を
果たす言語、ひいては言語で書かれたテキストを理解し、自在に生成することを目指す自
然言語処理に興味がありました。それまで取り組んでいた研究も非常に面白かったのです
が、わずかばかりですが積み上げていた業績に固執することなく、知的好奇心を揺さぶら
れる自然言語処理に取り組むチャンスを掴めたことは、とても良い選択だったと思ってい
ます。技術は刻一刻と古くなり、新しい可能性が生まれています。今後も現状に固執せず、
かろやかに、進むべき方向を決めていきたいです。

一方、「しなやかさ」について。竹はしなやかだから強い、といいますね。先日とあるシ
ンポジウムで、「研究者というのは、常に評価され続ける職業」という言葉を耳にしまし
た。修士・博士時代から発表件数や論文件数で評価され、若手時代はそれに加えて特許出
願や研究費獲得状況を評価され、その後も大型プロジェクトの獲得、受賞、委員活動など、
さらに評価される項目が増え、そしてそれは研究職を辞すまで続くのでしょう。こういっ
た評価は自身のパフォーマンスを客観的に測る上で重要ですし、セルフクリティカルでな
ければならない研究者にとっては有益とも言えます。しかし一方で、評価結果にあまりに
固執してしまうと自分の道を見失ってしまう。予算が取れても、論文がたくさん通っても、
技術の発展に寄与する重要な研究ができていなければ本末転倒です。またことあるごとに
一喜一憂していてはメンタルヘルス的にも健全ではなさそうです。論文が落ちる、研究費
の申請が落ちる、など、落ち込むチャンスはいくらでもあります。でも、落ち込んでも何
も生まれないし、そこで折れてしまったら、終わり。ダメなとき、悔しい思いをするとき、
そのときにこそ成長しているということを信じて、焦らず、腐らず地道に頑張ること。ま
た今回のように賞をいただいて嬉しいときには奢らず、集中力を保って淡々と研究を続け
ていけるようなしなやかさを身に着けていきたいと切に思っています。

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■3−2■ 日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜知恵は多い方がいい〜  馬場 雪乃 (筑波大学 准教授)

この度は、上林奨励賞という名誉ある賞を頂き誠にありがとうございます。日本データベー
ス学会の皆様に厚く御礼申し上げます。また、ご指導頂いた先生方、共同研究者の皆様に
改めて感謝申し上げます。

受賞のきっかけとなった研究成果の一つに、KDD 2015に採択されたものがあります。この
研究は、発展途上国の予防医療普及というビッグプロジェクトの一部として行われたもの
です。医療・データベース・機械学習等の様々な分野の専門家がチームを組んだ結果、機
械学習による予防医療コスト削減という、社会的意義の大きい成果を達成できました。一
人あるいは一分野の研究者で挑むだけではなく、多くの研究者の知恵や力を組み合わせる
ことでインパクトの大きい研究成果を目指すやり方もあるのだと実感しました。

研究の世界の良いところは、「新しいことを発見する」「世の中で役立つ技術を開発する」
という共通目的のもとで、研究者は基本的にはみな仲間であるということです。限られた
リソースだけで勝負する必要はなく、大きい成果を達成するために誰かの知恵を借りるこ
とができるのです。映画「シン・ゴジラ」の劇中に、「知恵は多い方がいい」という台詞
があります。この考えのもと、ゴジラ対策チームへの国外研究者の参加や外部機関への情
報開示を進めたことが、主人公たちに幸運をもたらします。このような、他人の知恵を借
りるためのオープンな姿勢は、若手研究者が次の段階に進みより大きな成果を挙げる上で
も重要なのだと感じています。

私はヒューマンコンピュテーションという、集団意思決定のための数理モデルの研究に取
り組んでおり、まさに「知恵は多い方がいい」ことを活かすための研究を行なっています。
研究の進め方においても同様の姿勢を採れるよう、今回の受賞を励みとして一層精進して
いく所存です。お力添えいただきますよう、よろしくお願い申し上げます。

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■3−3■ 日本データベース学会上林奨励賞を受賞して 〜真剣勝負のその先へ〜  山本 泰生 (山梨大学 助教)

この度、名誉ある上林奨励賞を賜り、大変光栄に存じます。ご推薦くださった方々をはじ
め、日本データベース学会の皆様に心から御礼申し上げます。

一流の情報科学者になりたい。研究の世界で真剣勝負がしたい。言葉にしますと恥ずかし
いのですが、そういう思いを信じて、大学院に進学しました。知力も体力も持ちあわせて
いない不肖者を生かし、図らずもこのような形で評価して頂いたことは望外のことで、こ
れまでご指導頂いた方々、関係者の皆様のご支援のおかげと感じています。

大学院時代は、人工知能基礎、特に仮説推論と閉ループ型学習に関する研究を行い、現職
に赴任後、ストリームデータを対象としたパターンマイニングの研究を行う機会を得まし
た。観測系から生成され続ける無限長のデータ系列のことをストリームと呼びます。この
種のストリーム型ビッグデータの特徴の一つは、バースト出現に伴いデータ総量が短期間
に爆発的に増加する点にあります。全データを保持し続けることが困難である以上、デー
タを「捨てる」ことが避けられません。よって、ストリームのデータ処理では、データを
「上手に捨てる」ことが重要なポイントとなってきます。

今回の受賞理由に挙げて頂きました2014 ACM SIGMOD国際会議 (SIGMOD’14) では、このコ
ンテキストのもと、限られた計算資源の中でデータ上の頻出パターンをオンライン抽出す
る高速・省メモリな近似アルゴリズムを提案しました。問題自体は新しくありませんが、
組み合わせ爆発というパターン抽出の本質的課題に対するソリューションとして価値を認
めて頂き採択に至りました。その後、JSTさきがけ研究において、提案法のスケーラビリティ
を改善する課題に取り組み、現在、高次元のより複雑な関係表現をオンライン抽出するこ
とが可能になってきています。

錚々たる歴代受賞者の末席に名を連ねさせて頂くことを誇りに思う反面、実際それに相応
しい研究者であったかどうかは今後の精進次第と理解しています。もう一度初心にかえり、
貪欲に自身の課題に挑戦したいと気持ちを新たにしています。基礎、応用に関わらずイン
パクトの高い知見は、実問題、すなわちデータに根ざしていると痛感しています。データ
中心のパラダイムを共有する本学会において今後ともご指導頂きましたら大変有り難く存
じております。

以上、取り留めない文章で恐縮ですが、上林奨励賞受賞の御礼とさせて頂きます。本当に
ありがとうございました。

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■4■ 編集後記  北山 大輔 (日本データベース学会 電子広報編集委員会 担当編集委員、工学院大学)
2回目 (2年目) となる受賞者の声特集号ですが、3つの紙面上の工夫を取り入れてみました。
1つは、同受賞者の記事の差異をわかりやすくするためにサブタイトルをつけていただいた
こと。2つめは、Newsletter自体の冒頭にあった賞の説明を記事の中に入れ、各賞との対応
を取りやすくしたこと。3つめは、冒頭の挨拶を省略し、編集後記という形で最後にもって
きたことです。いかがでしょうか?

昨年の特集号もそうですが、私自身がお世話になった方々、世代的に近い方々が受賞して
おり、自分も頑張らないと行けないなと思う次第です。今回ご寄稿いただいた受賞者の方
々の記事を読んでいると、研究の話、苦労した話、将来の展望、関係者への感謝といった
色々な要素が、1000字程度の中にギュッと詰まっているのを感じます。こういった情報の
圧縮能力というのも含めて、参考にさせていただきたいなと感じました。

本号ならびに DBSJ Newsletter に対するご意見あるいは次号以降に期待する内容について
のご意見がございましたら news-com [at] dbsj.org までお寄せください。

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Daisuke Kitayama
Interactive Media Lab.
Department of Information Systems and Applied Mathematics
Faculty of Informatics
Kogakuin University
Associate Professor, Ph.D
+81 3-3340-2683
kitayama [at] cc.kogakuin.ac.jp

北山大輔
工学院大学 情報学部 システム数理学科
インタラクティブメディア研究室
准教授 博士(環境人間学)
03-3340-2683(内線:2814)
kitayama [at] cc.kogakuin.ac.jp