日本データベース学会

dbjapanメーリングリストアーカイブ(2019年)

[dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 12, No. 5: SoC2019開催報告, SIGMOD/PODS2019, MDM2019, VLDB2020への道


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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2019年8月号 ( Vol. 12, No. 5 )
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本号では6月に開催されましたSoC2019の開催報告,国際会議参加報告2件,
ならびにVLDB2020に向けた連載記事をご寄稿いただきました.国際会議に
関しましては,6月に開催されたSIGMOD/PODS2019およびMDM2019について
ご報告いただきました.

本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する
内容についてのご意見がございましたらnews-com [at] dbsj.orgまで
お寄せください.

                日本データベース学会 電子広報委員会
                     (担当編集委員 塩川 浩昭)

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目次
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1.ソーシャルコンピューティングシンポジウム(SoC2019)開催報告
  山本 祐輔(静岡大学)

2.SIGMOD/PODS2019 参加報告
  並木 悠太(日本電気株式会社)  

3.MDM2019 参加報告
   佐々木 勇和 (大阪大学)

4.VLDB2020への道(その3)
  三島 健(慶應義塾大学),天方大地(大阪大学),佐々木勇和(大阪大学)

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■1■ ソーシャルコンピューティングシンポジウム(SoC2019)開催報告
山本祐輔(静岡大学)

今年で第10回を数えるソーシャルコンピューティングシンポジウム(SoC2019)
が,6月22日に『お茶の水大学共通講義棟2号館』で開催されました.本年度の
SoCでは,3件の招待講演と11件の一般発表の他,ICDE2019国際会議報告も行わ
れ,盛況のうちに幕を閉じました.

SoCでは学生の優秀な発表に対して学生奨励賞を授与しています.厳正な審査
のもと,今年度は以下の発表者を表彰しました.おめでとうございます.

○山田純平さま(工学院大)
探索的検索における検索行動アチーブメントとその評価

○鈴木凜次さま(甲南大)
ツイートからの反語自動抽出手法の提案

本年度のSoCでも魅力的な招待講演者を多数お招きしました.本Newsletterで
は,3件の招待講演とICDE2019国際会議報告に関してレポートいたします.

岡田友輔氏(株式会社DELTA)による「スポーツにおけるデータマネジメント:
野球界のデータ活用とKPI設定の変化」のご講演では,メジャーリーグに始まり
近年日本プロ野球でも浸透しつつあるデータ分析に基づく選手評価や野球戦略
分析手法である「セイバーメトリックス」についてご解説いただきました.
セイバーメトリックス導入による変化が起きたMLB・日本球界の事例,セイバー
メトリックス分析の結果を最大限に活かす球団の取り組みなどをご紹介いただ
き,野球ファンだけでなくデータ工学に携わる者には大変興味深い時間となりました.

笹原和俊先生(名古屋大学大学院情報学研究科)による「計算社会科学による
人間・社会のわかり方」のご講演では,人々の行動やコミュニケーションに
関する規模な行動ビッグデータを分析・モデル化して,実世界の人間行動や
社会現象を定量的に理解する新しい学問「計算社会科学」 (Computational
Social Science) について概説していただきました.ご講演では計算社会科学の
アプローチの紹介に加えて,フェイクニュースの生態系やフードファディズムと
社会的振舞傾向の関係など,私たちの社会生活に密接に関連するテーマについて
データに基づいて紹介いただきました.計算社会科学の今後の可能性を感じた
ご講演でした.

深見俊和氏(株式会社サイバーエージェント)による「位置情報を用いた
ターゲティングおよび広告配信技術」のご講演では,私たちが普段目にする
ターゲティング広告の裏側についてご解説いただきました.最近のデジタル
広告ではスマートフォン端末から取得できる位置情報ログを活用し,店舗への
来店促進を行う広告配信サービスが展開されています.時々刻々と収集される
位置情報データに対して,機械学習技術がどのように活用されているのか,
現場にいなければ聞くことができない生々しい話が聞くことができ,大変
刺激的なご講演でした.

莊司慶行先生(青山学院大学)による「ICDE2019国際会議報告」では,会議
全体の雰囲気や採択率,国別投稿数などの統計情報に加え,キーノート発表や
パネルディスカッションに関して紹介がありました.キーノートについては
「都市分析を題材としたData-drivenな科学調査」,「オープンソースの分散
グラフDB: Asterix」,「Amazonのプロダクトグラフ」について紹介がありま
した.また,ICDE 2019 Influential Paper Awardを受賞した"Predicting 
Multiple Metrics for Queries: Better Decisions Enabled by Machine
Learning"の紹介では,DB研究とAI研究のあり方について興味深い報告がなされました.

(山本祐輔 静岡大学 情報学部)



■2■ SIGMOD/PODS2019 参加報告
並木悠太(日本電気株式会社)

6月30日から7月5日にかけてオランダ・アムステルダムで開催されたACM
SIGMOD/PODS Conference に参加しました.私は事業部でデータベース関連製品
の製品開発を担当しており,これまで論文を読むことはあっても,こうした国際
学術会議に参加するのは初めての経験でした.今回,国立研究開発法人新エネル
ギー・産業技術総合開発機構 (NEDO) の委託業務の一環として参加の機会を得た
次第です.初参加ですので傾向の変化や類似会議との比較といった分析はできま
せんが,簡単に内容をご報告できればと思います.

まず参加者の状況ですが,満員と言ってよい1,050名強が集まったとのことで,
特にポスターセッションでは身動きが取りにくいと感じるくらいの盛況を博して
いました.国別に見るとアメリカから316名,ドイツ162名,中国65名と続き,
日本は10位で27名と,アメリカからの参加者数の圧倒さが印象的でした.採択率
をみると,Research Paperに関しては430本の投稿に対し88本が採択され採択率
は20%との発表がありました.

今回,参加の主たる目的はデータベースにおける新しいハードウェアの活用に
関する情報収集でした.SIGMODではマルチコアに最適化されたロギング手法,
高速なネットワークを活用した分散木構造,また併設ワークショップのDaMoN
 (International Workshop on Data Management on New Hardware) ではSSDの
プログラマブルなコントローラにワークロードに特化した制御を入れることで
I/Oの性能を向上させる試みなど,ハードウェアの様々な活用方法について発表
を聞くことができました.また,今回のJim Gray Dissertation Awardの受賞論
文は"Data Management on Non-Volatile Memory"であるように不揮発性メモリの
活用に関する研究はこれまでに行われてきているものの,今年4月にIntel Optane
DC Persistent Memoryが正式発表されたばかりであり,実機の普及は
これからの状況です.これまではDRAMに若干の遅延を加えたエミュレーションに
よる評価が中心でしたが,今後は実機の特性をより正確に反映させた評価や改善
の取り組みに期待を持ちました.

網羅的ではありませんが,セッションの全体構成を昨年のプログラムと比較する
と,セッションのタイトルからTransactionという単語が消え,Blockchainが
新たに登場していました.Blockchainはこれまでセキュリティの面から研究され
ていることは知っていたのですが,今回はキーノートでも取り上げられていると
おり,データ管理の面からの関心も高くなっているようです.残念ながら当該
セッションには参加できなかったものの,ポスターセッションで話を聴くと
(多くの人が集まっていました)トランザクションの並行性制御の改善による
性能向上などの取り組みが行われており,今後同分野でこれまでのデータベース
における研究の知見を活かしながら発展が期待できそうなものでした.

この他,キーノートではデータの解析におけるプライバシー保護のための考え方
であるDifferential Privacy,そしてResponsible Data Scienceというタイトル
でデータから公正で信頼できる知見を得るために考えるべきことに関する講演が
ありました.機械学習においてモデルが「正しく」できているかは非常に重要な
問題であり,講演でも画像中の物体を見分けたかったのに背景で分別するモデル
になっていた例や,入力データに偏りがあって不公正なモデルができてしまった
例が紹介されました.機械学習の結果を盲信してはならないことを改めて考えさ
せられる内容でした.

今回こうした場に参加してみて,質疑をはじめとする参加者間のコミュニケー
ションなど論文を読むだけでは得られない経験を得られたと感じています.
キーノートなど一部の講演は映像が参照できる [1] など,現地まで行かなくて
も得られる情報は増えつつあるとは思いますが,今後も参加したいと思う有意義
な機会でした.

[1] https://bit.ly/2NRpZvC

(並木悠太 日本電気株式会社 AIプラットフォーム事業部)



■3■ MDM2019 参加報告
佐々木勇和(大阪大学)

第20回目となるMobile Data Management (MDM2019) は6月10日から13日に香港に
て開催されました.香港は第1回目のMDMの開催地であり,20回を記念して香港で
再度開催とのことです.MDMは時空間データやセンサーネットワーク,移動軌跡
データなどの位置情報をもつようなデータに関する研究が主となっております.
データベースやネットワークに関する論文が多かったのですが,最近はデータ
マイニングや機械学習を用いた研究も増えています.

MDMはそこまで大きな会議ではないのですが,データベースのトップ研究者も
多く参加しています.例えば,日本で開催されるVLDB2020の運営委員の中で
は,General ChairのChristian S. Jensen (Aalborg University),Program
Committee ChairのXiaofang Zhou (University of Queensland),Associate
EditorのGuoliang Li (Tsinghua University),Sponsorship Committee Chair
のMohamed Mokbel (Qatar Computing Research Institute) がMDM2019に参加
しておりました.SIGMODやVLDBと比較すると研究の質は落ちるかもしれません
が,小規模な会議の利点として直接著名な研究者にアドバイスをもらえるよい
機会となります.

それではここからMDM2019の内容について書いていきます.MDM2019では,
MDM 20-Year Influential Paper AwardとしてMDM2001で発表された"Towards
Sensor Database Systems (Philippe Bonnet, Johannes Gehrke, Praveen
Seshadri) が受賞しました.この論文は,センサデータに対する問合せを発行
した後にセンサからデータを収集する分散的なアプローチのメカニズムを提案
しています.この論文時点でのstate-of-the-artは事前にデータをひとつの
サーバに収集してから問合せを発行するものであり,本論文はEdge computingの
さきがけとなったと言っても過言ではないかと思います.この論文の引用数は
驚くべきことに1100件ほどとなっておりました.比較のためにVLDB2001の論文
の引用数を調べたところ,1000件を超えるものは3件のみでした.いかにこの
論文のインパクトが大きかったかがわかります.

キーノートは3件の発表がありました.Walid G. Aref (Purdue University)
による "The Dos and Don’ts of Spatial+X Data Management: A Systems
Perspective",Xing Xie (Microsoft Research Asia) による"Future of
Personalized Recommendation Systems",Xiaofang Zhou (University of
Queensland) による"New Advances in Spatial Trajectory Analytics"です.
この他にも,Workshopのキーノートや,Invited seminarなどのスライドも
(全てではないですが)MDM2019のホームページからダウンロードできますので
興味があるものがあれば調べてみてください.

MDM2020はフランスのリヨンで開催されます.論文締切は例年1月,開催は6月に
なります.投稿や参加を検討してみてはいかがでしょうか.

(佐々木勇和 大阪大学 大学院情報科学研究科)



■4■ VLDBへの道(その3)
天方大地(大阪大学),佐々木勇和(大阪大学)

今回は,VLDBに採択のご経験がある三島先生(慶應義塾大学)に,VLDB採択時の
経験をシェアしていただきました.現在VLDB採択を目標とされている方々に
とって非常に有益な情報となっています.

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「VLDB採択のために私が工夫したこと」
三島健(慶應義塾大学)

私は元々データベースシステムの研究者ではなかったため,データベース
システムの研究者に私を知ってもらいお友達を増やすために(?),データ
ベースシステムのトップカンファレンスであるSIGMODまたはVLDBに採択される
ことが悲願でありました.

以下に3つの工夫した点を書きます.

(1) 現実的な問題点を解決すること
コストを惜しみなくかけて世界最高性能を達成したという論文をトップ
カンファレンスでは良く見かけました.もちろん重要なテーマであると
思いますが,私はコストとパフォーマンスのバランスが取れた実用的な
研究成果を生み出すことに興味がありました.そこで,コモディティな
ハードウェアとソフトウェアを無改造で実現することにこだわりました.

(2) シンプルなアイデアであること
複雑で分かりにくいアルゴリズムはオーバヘッドが大きくなりがちです.
そこで,誰でも分るシンプルなアイデアにこだわりました.

(3) 提案したアイデアの正しさを証明すること
アイデアを提案し実装し評価をした論文は多数見かけますが,そのアイデア
の正しさを実装と評価だけから判断するのは弱いと思いました.そこで,
証明をつけて誰もが私のアイデアを正しいと理解できるようにこだわりました.

このような工夫が功を奏したのか,査読者全員からAcceptの評価をもらいまし
た.また,査読者の一人から"simple and effective"というコメントももらい
ました.この"simple and effective"はまさに私が目指した精神でした.この
精神と上記の工夫はその後の研究にも生かされており,SIGMODの採録にも繋げる
ことができました.VLDBやSIGMODで登壇すると,世界の優秀な人から話しかけ
られてとても刺激的です.再び登壇できるように頑張ろうと思っているところです.
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三島健(慶應義塾大学 政策・メディア研究科)
天方大地(大阪大学 大学院情報科学研究科)
佐々木勇和(大阪大学 大学院情報科学研究科)




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Hiroaki Shiokawa, Ph.D
University of Tsukuba
Email: shiokawa [at] cs.tsukuba.ac.jp
TEL: +81-29-853-5524