日本データベース学会

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[dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 13, No. 3: 若手企業研究者特集号


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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2020年7月号 ( Vol. 13, No. 3 )
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本号では企業の若手研究者の方々に対するインタビュー記事を企画しました.
データベース分野の研究に関わる方々にお願いしましたが,LINE,富士通
研究所,NTTなど日本を代表する企業の方々からご寄稿頂きました.研究者を
志す若い学生の方のご参考になればと思います.

本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する内容
についてご意見がございましたらnews-com [at] dbsj.orgまでお寄せください.

日本データベース学会 電子広報編集委員会

(担当編集委員 藤原 靖宏)

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目次
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1. LINE Data Labs について
   髙橋翼(LINE)

2. 富士通研究所について
   加藤千裕(富士通)

3. NTTサービスエボリューション研究所について
   田中佑典(NTT)


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■ 1 ■ LINE Data Labs について
                    髙橋翼(LINE)

Q.企業で行っている研究を一言で教えて下さい.
A.ビッグデータやAIの活用を促進するため,「プライバシーリスクの最小化
    とデータの価値の最大化」を目指したプライバシー保護技術の研究に取り
    組んでいます.

Q.大学ではなく企業で研究を行おうと志したきっかけや理由を教えて下さい.
A.リアルな課題を意識して研究に取り組みたいと考えたため,企業の研究所
    を志望しました.
    論文をたくさん書きたい気持ちは学生時代から変わっていませんが,取り
    組んでいる研究の意義や価値,事業性などの議論を通して研究テーマが
    設定できたらいいなと考えていました.

Q.大学の研究と企業の研究でギャップを感じたこととその理由を教えてくださ
  い.
A.企業の研究では,研究成果による「事業貢献」や「価値の最大化」を意識
    して研究を進めています.
    事業貢献のわかりやすい形として,新しい事業の立ち上げに資する技術の
    開発や,既存事業の抱える問題解決などが挙げられます.
    また,論文の投稿先を決める際に,どの会議にどのくらいの本数が採択
    されればPR の価値が高いかを議論しています.
    どういった形で所属する企業の価値に変えていくかを常に意識する必要が
    あることが,大学と企業の研究の大きなギャップと感じます.

Q.取り組んでいる研究業務中で達成感を感じたこととその理由を教えて下さ
  い.
A.展示会やプレゼンテーションの際に社内外の方々に「いいね」と言って
    もらえたり,議論から新しい研究が生まれたりしたときは,大きな達成感
    を感じます.
    研究の価値が認められたと感じることができるためです.
    論文が採択されることも同様な理由で嬉しいです.
    最近はインターンを指導する機会も増えてきたため,インターンと一緒に
    書いた論文の採択や受賞がすごくうれしくて,自分が取り組んだ研究より
    も達成感を感じます.

Q.学生の頃と比較して自分が成長したと思うことを教えて下さい.
A.まず相手に合わせた説明ができるようになったことが挙げられます.
    企業の研究活動では,営業やシステムエンジニア,上司や執行役員,
    そしてお客様にご説明し,わかって頂くためのプレゼンテーションの機会が
    多々あります.
    研究成果はわかっていただけて初めて価値があるため,非常に重要な仕事
    です.
    また,そうした過程を経て,どういった研究テーマが企業にとって価値が
    高いのか,少しずつ分かるようになってきました.

Q.今後に取り組みたいことを教えて下さい.
A.AI やエッジコンピューティングが浸透した世界では,これまで以上に
    大量のデータが呼吸をするように収集,処理されて,日々の暮らしに還元
    されていくようになると考えています.
    このようなプラットフォームを安心して使えるようにするため,引き続き
    時代に即したプライバシー保護技術を研究していきたいと考えています.
    また難関国際会議での継続的な論文採択を目指していきたいです.
    論文採択を通して自身と企業のプレゼンスを高め,著名な方々との
    コラボレーションや採用の機会を増やし,もっと面白くて意義深い研究に
    つなげたいです.

Q.企業の研究者を目指そうとしている後輩にアドバイスをお願いします.
A.企業では専門性の高い人材を求める傾向が高まっているようにも感じます.
    まずはじっくりと大学でご自身の専門を伸ばし,博士課程で研究者としての
    基礎を固めることが重要と思います.
    また近年,研究インターンシップを開催する企業が増えてきました.
    インターンシップを通して,企業ごとに異なる研究への考え方,取り組み方
    を体験されてみるとよいのではないでしょうか.

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■ 2 ■ 富士通研究所について
                    加藤千裕(富士通)

Q.企業で行っている研究を一言で教えて下さい.
A.企業間で流通するデータをコンテナ基盤上で上手く扱う研究を行って
    います.

Q.大学ではなく企業で研究を行おうと志したきっかけや理由を教えて下さい.
A.理由の一つは,人のためになる研究をしたかったからです.
    大学の研究は技術的に面白いものをやらせてもらっていましたし,そちら
    にも楽しみを感じていましたが,その研究がどこに使われるのか,将来の
    役に立つのかという部分に関してはいつも疑問を抱いていました.
    実際に社会で必要とされている技術の研究を行って,誰かの喜ぶ顔が
    見たいと思っていました.
    もう一つは,俗な物言いになってしまいますが金銭面です.
    博士課程に進むより,企業に就職し,育ててくれた両親に恩返しをしたい
    という思いがありました.

Q.大学の研究と企業の研究でギャップを感じたこととその理由を教えてくだ
  さい.
A.企業はお客様の課題を解決し,その報酬をいただくことで成り立っていま
    す.
    ですから,企業において研究をする上では,その研究がお客様にとって
    どのように役立つか,それを達成するためにどう研究を進めていくかに
    ついて,研究員らが上層部にビジョンを説明し,合意して初めて研究に
    着手することが出来ます.
    この大変さは大学の研究にはないものでしたので,研究にたどり着くまで
    の過程に大きなギャップを感じました.

Q.取り組んでいる研究業務中で達成感を感じたこととその理由を教えて下さ
  い.
A.実際に研究開発した技術が動き,デモを作って人に見せることが出来た時
    はとても達成感を覚えました.
    先ほども述べた通り,企業の研究はどのような技術を研究しどう役に立つ
    のかを説明して納得してもらってから始まるわけですが,実際にその説明
    の通りのものが完成するかは未知数の部分があります.
    その説明の一部でも実際に動くものに落とし込めた時は,安堵と共に,大
    きな達成感があったのを覚えています.

Q.学生の頃と比較して自分が成長したと思うことを教えて下さい.
A.企業で働いて,視野が広がってきたと感じています.大学の中では良くも
    悪くも似た境遇の人が集まっていることが多く,価値観も似ている人間が
    多かったと思います.
    翻ってみて企業は文系の事務職から理系の研究職まで様々な人間が一堂に
    会し,様々な仕事を行っています.
    このような環境に身を置くことは視野を広げるきっかけになりました.
    技術的な面についても,企業の研究では自分の大学時代の専門分野を
    ずっと深掘りし続けているわけではなく,専門外の技術についての研究も
    やらせてもらっています.
    そのため大学にいては興味を持たなかったような技術について学ぶ機会を
    頂き,幅広い知識を得ることができていると感じます.

Q.今後に取り組みたいことを教えて下さい.
A.一応専門分野はデータベースシステムなので,そちらの研究をまたやり
    たいという気持ちはあります.
    具体的な研究内容を思いついているわけではないので,ただ思っている
    だけですが.

Q.企業の研究者を目指そうとしている後輩にアドバイスをお願いします.
A.前述の通り企業研究は,企業のお客様の課題を解決するためのものであり,
    そのために課題の調査やロードマップの作成など,多くのことを気に
    掛ける必要があります.
    代わりに,研究がうまく行けばそれが自社のプロダクトに入り,お客様の
    課題を解決し,報酬をいただく喜びがあります.
    研究という根幹部分は変わっていないのですが,企業の研究者と大学の
    研究者は完全に別の職業だと言ってもいいのではないかと思うほどに,
    この二つは違っていると感じています(企業の風土にもよると思います).
    ですので,研究がやりたいから企業と大学で選ぶというよりは,企業の
    研究者と大学の研究者を別の職業だと思って,どちらの情報もしっかり
    集めながら自分に合った職業を選択していただくのが賢明かもしれません.
    その上で企業の研究者を選択するのであれば,歓迎いたします.
    是非一緒に頑張りましょう!

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■ 3 ■ NTTサービスエボリューション研究所について
                    田中佑典(NTT)

Q.企業で行っている研究を一言で教えて下さい.
A.人の位置情報や行動履歴データを解析するための機械学習技術の研究を
    行っています.

Q.大学ではなく企業で研究を行おうと志したきっかけや理由を教えて下さい.
A.大学で研究室に配属になってから研究というものが面白いことに気づいて,
    研究者になれたらいいなと思うようになりました.
    自身の興味や適性を踏まえて,理論一筋の研究よりは実データを対象と
    した応用も見越したような研究がやりたいと考え,それならば企業の研究者
    がよいのではないかと考えました.
    また,企業に所属しながら博士号を取得することができる社会人博士課程
    という制度があり,実際にそれを活用して博士号を持つ先輩社員の方々が
    多くいらしたこともNTT研究所を選んだ理由の一つでした.
    ちなみに,私も昨年度3月に無事博士号を取得することができました.

Q.大学の研究と企業の研究でギャップを感じたこととその理由を教えてくださ
  い.
A.学生の頃に比べて,自身の研究の価値について考える機会が増えたと感じて
    います.
    例えば,新しい研究テーマを企画する際には,研究の学術的価値に加えて,
    その研究が自社や社会に与える影響の大きさを考慮して研究ストーリーを
    組み立てる必要があります.
    また,研究成果は学術的な場だけではなく,展示会などの一般的な場でも
    発表の機会があります.
    聴衆に応じて説明の仕方を変えるなど,柔軟な対応が必要とされると感じ
    ます.

Q.取り組んでいる研究業務中で達成感を感じたこととその理由を教えて下さ
  い.
A.難関国際会議に論文が採録されたときに達成感を感じます.
    研究テーマの立ち上げ,手法の考案,実験,論文執筆と労力をかけて取り
    組んだ研究が世界に認められることは大きなモチベーションになって
    います.
    また,社内外の研究者と協力し,日々の議論を通じて研究をブラッシュ
    アップしていくことも大きな達成感につながっています.

Q.学生の頃と比較して自分が成長したと思うことを教えて下さい.
A.研究テーマを構成する能力です.
    学生の頃は,先生の助言や研究室で取り組まれている研究テーマと近い
    ものを選ぶというような場合も少なくなかったように思います.
    現在は,論文調査に加えて,現代の社会的背景や技術分野における
    トレンド・問題意識などにも注意を払ってテーマを選定するように
    心がけています.
    何に取り組むかを決める段階で良い研究になるかどうかの大半が
    決まってしまうように感じているので,ある程度時間をかけるように
    しています.

Q.今後に取り組みたいことを教えて下さい.
A.最新技術(深層学習など)が未だ扱えないような問題を解決するような
    新技術の開発にチャレンジしたいと思っています.
    例えば,コストやプライバシーの理由で大規模かつ詳細な人の行動履歴
    データが手に入らない状況での機械学習技術や,想定外の状況が発生した
    場合にも柔軟に適応する機械学習技術などに取り組みたいと考えています.

Q.企業の研究者を目指そうとしている後輩にアドバイスをお願いします.
A.企業の研究者を目指される場合でも,今大学で行っている研究に精一杯取り
    組むことが最も大切ではないかと思います.
    たくさん議論をして技術をブラッシュアップし,研究会などに参加して
    プレゼンテーションを行い,論文としてまとめる,といったプロセスを
    通じて,企業研究者としても必要なことが身につくように思います.
    企業だからこそ必要な能力というものも確かにありますが,それは企業に
    入ってからでも身につけることができます.
    また,大学での研究を通じて,自分の得意分野をきちんと身につけておく
    ことをお勧めします.
    企業には様々なバックグラウンドを持った人たちが集まっているので,
    それがご自身の武器になるかと思います.
    もし企業研究所の雰囲気を知りたかったら,NTT研でも夏に一月間の研究
    インターンを募集しているので参加を検討してみてください.

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