日本データベース学会

dbjapanメーリングリストアーカイブ(2021年)

[dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 14, No. 7: ACM/IEEE JCDL 2021, ACM RecSys 2021, ACM Multimedia 2021, ACM CIKM 2021, ACM ICMR 2021

  • To: dbjapan [at] dbsj.org
  • Subject: [dbjapan] DBSJ Newsletter Vol. 14, No. 7: ACM/IEEE JCDL 2021, ACM RecSys 2021, ACM Multimedia 2021, ACM CIKM 2021, ACM ICMR 2021
  • From: Yuanyuan WANG <y.wang [at] yamaguchi-u.ac.jp>
  • Date: Wed, 01 Dec 2021 07:38:49 +0900

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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2021年12月号 ( Vol. 14, No. 7 )
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冬晴れが心地よい師走の候,皆様におかれましてはお変わりなくお過ごしでしょ
うか.ますますご多忙の時期に恐れ入りますが,お体にお気をつけて良き新年を
お迎えください.皆様のご健康とご多幸をお祈り申し上げます.

さて,本号では, 9月に開催されました,デジタル図書館情報学および推薦シス
テム分野における世界最高峰のトップカンファレンス「ACM/IEEE JCDL」と「ACM
RecSys」をはじめ,10月および11月に開催されました,マルチメディアや情報検
索,データベース,ナレッジマネジメントおよびマルチメディア検索分野での最
重要国際会議「ACM Multimedia」,「ACM CIKM」と「ACM ICMR」についてご寄稿
いただきました.それぞれの会議の特徴や最近の傾向,トップカンファレンスへ
の投稿のメリット,論文採択に至るまでの工夫など,皆様のご参考になれば幸い
です.

本号ならびに DBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する内容
についてのご意見がございましたらnews-com [at] dbsj.orgまでお寄せください.



                                 日本データベース学会 電子広報編集委員会
                        (担当編集委員 王 元元)

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目次
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1. ACM/IEEE JCDL 2021 参加報告
    莊司 慶行  青山学院大学

2. ACM RecSys 2021 参加報告
    天方 大地  大阪大学

3. ACM Multimedia 2021 参加報告
    柳 凜太郎  北海道大学

4. ACM CIKM 2021 参加報告
    原田 将之介  京都大学

5. ACM ICMR 2021 参加報告
    田中 公啓  エムスリー株式会社

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■1■ ACM/IEEE JCDL 2021 参加報告	    莊司 慶行 (青山学院大学)
                                      
2021年9月27日から 30日に開催された,図書館情報学分野のトップ会議である
JCDL 2021 に参加し,研究発表を行って参りましたので,報告させていただき
ます.


【開催概要】
今年のJCDLはオンライン開催で,論文募集の時点ですでに現地開催はない旨が
告知されていました.ホストは米国イリノイ大学アーバナシャンペーン校で,
スケジュールは基本的にアメリカ時間での進行でした.採択論文数は22本で,
採択率は28.9%と,例年に比べるとやや通りやすかったようです.

実際の会議は「RD Mobile」というオンラインイベントプラットフォームを中
心に,キーノートなどは Zoom のウェビナー,一般セッションは Zoomミーテ
ィングで進行していました.最近のオンライン会議でよくみられる工夫ですが,
各日のセッション前後などに「ソーシャルルーム」という雑談用のZoomの部屋
が用意されたり,参加者が 2次元マップ上で交流できるギャザータウンが用意
されていたりと,参加者同士の交流に対する手厚いサポートが提供されていま
した.

開催形態の面白い点として,多様なタイムゾーンの人に発表を届けるために,
すべての発表を,時間をずらして 2回ずつ行うという形式をとっていました.
そのため,発表時間はトップカンファレンスとしてはかなり短い 8分で,事前
にビデオを集めておいて,ビデオの再生後にライブで通話して質疑応答という
形態でした.

実際の発表の雰囲気はというと, 2回に分散されているということもあり,会
議の規模に比べて,1 部屋あたりの参加者がかなり少なめで,20人以下のセッ
ションが多く見られました.そのため,会場の参加者からの活発な質問という
よりは,座長の方がじっくり質問していることが多かったように思います.


【会議の内容】
会議全体の傾向として,JCDLは情報検索などの情報学系と,大規模文書アーカ
イブやその公開といった人文社会科学系,両方の研究を対象にしています.そ
のため,投稿される論文も幅広かった印象を受けました.全体を眺めた体感で
は,半分弱が学術論文リポジトリなどの学術データ関連で,アルゴリズム,運
用,比較分析などのトピックが含まれていると思います.次に多かったのが情
報検索,情報抽出アルゴリズムの研究で,ニュースやウェブアーカイブなどを
対象にしているものが多かった印象です.ほかに,ユーザ分析や社会分析,大
規模アーカイブに関する研究発表も盛んでした.

キーノートも,情報的な話と人間的な話が入り混じっていました(大変面白く
聞くことができましたが,私のトークの内容の理解度は50パーセントくらいだ
と思います).

1件目は,情報検索アルゴリズムと人種差別に関する大変有名な書籍
「Algorithms of Oppression : How Search Engines Reinforce Racism」の著
者である,Safiya Umoja Noble氏による講演でした.クエリサジェスト汚染や
検索結果のバイアスなど,検索エンジンの人種差別を助長する側面に関する,
様々なケースと取り組みをご紹介いただきました.情報系の人が,今後どうや
って差別的な情報を含むメディアに向き合うべきかについて,問いを投げかけ
るような内容の発表だったように思います.

2件目は,「"Digital Library" is a Metaphor」というタイトルで,HCI 分野
の研究者である Michael Twidale氏が,電子図書館システムと現実世界での情
報アクセスを比喩で結びつけて論じる内容でした.「現実の本棚は電子図書館
で言うと何であるべきか」などの直接的な話から,比喩そのものに関する抽象
的・哲学的な領域まで話が及んでおり,会場がオンラインにもかかわらず沸い
ていました.

会議を通しての個人的な感想として,最近,情報検索や情報アクセス技術の研
究では,アルゴリズムの研究とは別に,ユーザモデリングなどの利用者の分析
が重要だと言われてきています.一方で,これらの研究発表やキーノートを聞
いているうちに,「ユーザ分析から社会分析に,情報アクセス系の研究のスコ
ープが移動してきているのかも」という気がしてきました.

ベストペーパーは京都大学を中心とする研究チームによる「Estimating
 Contemporary Relevance of Past News」という論文でした.受賞,大変おめ
でとうございます.


【発表内容の紹介】
幸運にも,私が参加している研究プロジェクトの論文「Museum Experience
into a Souvenir: Generating Memorable Postcards from Guide Device
Behavior Log」についても,発表の機会を得ることができました.この研究で
は,「博物館用iPadガイドの操作ログを収集して,個人が興味を持った展示物
を推定し,あとから見返せるような1枚のポストカードにまとめる」 という,
ミュージアム現地での学習内容の記憶定着支援に関する仕組みを提案していま
す.実はこの論文は,情報アクセス技術のアプリケーションの研究として情報
検索系の会議に出したところ,「アプリケーションとしての意義の大きさに対
して,実装や実験の規模が小さすぎる」などの理由でリジェクトされたもので
す.それを,実験結果などはそのままに,やや手直ししてJCDLに出してみたと
ころ,テーマとしての重要さなどが評価され,割と高い評価でするりと採択さ
れました.応用寄りの研究は,分野の相性もあるので,粘り強く幅広い会議に
出してみるのがいいのかもしれません.

また,今年に限定した話になりますが,この研究では,COVID-19に関する状況
から博物館現地での長期的な実験ができなかったので,研究室内で疑似的に実
験を行いました.論文的にはかなり不利な状況だと思ったのですが,査読者の
方々は研究室実験ならではの工夫などについても評価してくださっていて,か
なり肯定的でした.

来年の開催はドイツのケルンを予定しており, 6月開催予定とのことです.締
め切りはだいぶ早く, 1月になる模様ですので,投稿をご検討の方は早めにご
準備いただければと思います.


(莊司 慶行  青山学院大学 理工学部 助教)

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■2■ ACM RecSys 2021 参加報告           天方 大地 (大阪大学)

2021年9月27日から10月1日にかけて開催された The ACM Recommender Systems
Conference (RecSys)に参加しました(ワークショップ等を含めると,9月24日
から10月2日までと非常に長丁場な会議でした).メイン会議に私の主著論文
「Reverse Maximum Inner Product Search: How to efficiently find users
who would like to buy my item?」が採択されたため,ここで参加報告をさせ
て頂きます.

RecSys は推薦システムに特化した国際会議であり,今回で 15回目の開催とな
ります.主観ではありますが,推薦システムが色んな分野で実装されるように
なってきているとともに RecSys への注目度も上がっているように思います.
例えば RecSys 2021の参加登録者数は1000を超えているという報告もありまし
た.また,スポンサーに注目すると,名だたる企業がスポンサーとなっており,
少なくとも注目度は歴史ある SIG系の国際会議に近いレベルに来ているのでは
ないかと感じました.RecSys 2021 は,アムステルダムとオンラインのハイブ
リッドで開催され(私はオンラインで参加しました),現地の様子(写真)は
Twitter で閲覧することができます.写真からは,見た目はコロナ前と変わり
ない状態を伺うことができます(ほぼマスクなし,ソーシャルディナーあり,
エクスカージョンありだったようです).安全性に関しては把握できません
(ワクチンパスポートの提示は必要だったようです)が,早くこのような状況
に戻る,あるいは気軽に現地・オンラインを選択できることを祈るばかりです.

RecSys 2021 ではショートペーパー・ロングペーパーの区別が撤廃され,最大
のページ数のみ制限があり,ページ数が短い場合でも確かなコントリビューシ
ョンがあれば採択される方針が採用されました.そのため投稿しやすくなった
ように思いましたが,今年の投稿数は267と,昨年のトータルの投稿数(346)
に対して減少しています.一方,採択率はここ数年と同様のようで,採択数は
49でした.採択論文の国別著者数では日本が 3位という報告もありました.会
議はシングルセッションで進行され,参加者は全ての発表を聞くことができま
す.その効果もあってか,このコミュニティを盛り上げようとしている様子は
配信からも感じることができました.私個人の感想にはなりますが, Netflix
や Microsoft等の企業が実際に取り組んでいる推薦システムに関する技術課題
を把握できる点は非常に有意義でした.しかし,(会議の規模を考えると致し
方ない点もありますが)タイムゾーンは CEST のみであり,メインセッション
は現地の午後以降に設定されていたため,日本からのオンライン発表は深夜前
後となり,多少ハードな面もありました.

今回採択された我々の論文は,2015年頃から注目度が上がっている最大内積探
索(k-MIPS)問題(かなりざっくり言うと,クエリをユーザベクトルとして,
そのユーザとの内積が最も大きいk個のアイテムベクトルを探索する問題)に
関連したものです.この論文では,その逆探索問題(アイテムベクトルをクエ
リとし,このクエリがk-MIPS結果に含まれるユーザベクトルを全て探索する問
題)を定義し,この問題を高速かつ正確に解くアルゴリズムを提案しています.
アプリケーションは推薦システムである一方で,技術はデータベースというこ
ともあり,(RecSysへの投稿は初めてだったので)投稿前はどのように評価さ
れるか読めませんでしたが,Database paper! Out of scope! といったコメン
トは一切なく,motivationやtechnical contributionをポジティブに評価して
頂きました.賭けの要素はあるかもしれませんが,技術的なスコープではなく
応用先のスコープに投稿することもプレゼンスや視野,コネクションを高める
一つの手段のように思いました.

最後に,RecSys 2022 はアメリカのシアトルで開催される,ACM Transactions
on Recommender Systemsが創設される,というアナウンスがありました.関連
分野の方々はチェックされてみてはいかがでしょうか.


(天方 大地  大阪大学 大学院情報科学研究科 助教)

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■3■ ACM Multimedia 2021 参加報告        柳 凜太郎 (北海道大学)

2021年10月20日から24日まで開催された The ACM International Conference
on Multimedia 2021 (ACM MM 2021)に参加してきました. ACM MM 2021 はACM
の分科会であるSpecial Interest Group in Multimediaが主催するマルチメデ
ィア分野のトップカンファレンスの一つであり,マルチメディアデータの解析
からソフト・ハードウェアの開発に至るまで非常に広範な分野の研究が発表さ
れています. また,Main trackに当たる"Regular Paper"以外にも,マルチメ
ディア処理のコンペティションである"Multimedia Grand Challenge"やデモン
ストレーション発表の場である"Technical Demos and Videos",更には,メデ
ィアアートを展示する"Interactive Artworks"などが開催されております.

ACM MM 2021は,中国の成都で開催される予定でありましたが,昨今の COVID-
19の影響を受けて,現地参加とオンライン参加のハイブリッドでの開催になり
ました. Main track に当たる "Regular Paper"の採択率は 28% (542件/投稿
1942件)であり,その中でも,上位9.2% (179件/投稿1942件)の論文がオーラル
発表として採択されました. 開催形式に関しましては,Whovaと呼ばれるイベ
ント運営アプリを通じて,事前に録画されたプレゼンテーション動画・ポスタ
ー・Proceedings などにアクセスし,著者にチャット形式で質問を行うという
形式が取られました.また,オーラルセッションでは,各発表者に対してライ
ブ発表の時間が確保されており,オンラインの参加者は現地の参加者と質疑応
答することが可能でした.一方,ポスターセッションでは,個別の発表時間な
どが確保されておらず,オンサイト開催と比較して議論や交流の少なさを感じ
ました.

本年度,私は,"Multimedia Search and Recommendation-I"というオーラルセ
ッションにおいて以下の論文を発表させていただきました.

Rintaro Yanagi, Ren Togo, Takahiro Ogawa and Miki Haseyama,
"Database-adaptive re-ranking for enhancing cross-modal image retrieval,"
https://dl.acm.org/doi/10.1145/3474085.3475681

以上の論文では,テキストから画像を検索することが可能なクロスモーダル画
像検索の実応用を見据えた再検索手法を提案しております.従来のクロスモー
ダル画像検索手法では,テキストと画像の類似度を正確に算出することを目的
としており,ユーザにより与えられたクエリが目的の画像を絞り込めないほど
に曖昧である場合やデータベースの内容に偏りが存在する場合には,一度の検
索で高精度な検索結果を得ることは困難でした.例えば,食事の写真が多く含
まれるデータベースから画像を検索したい場合, "ある日の友人との昼食の時
間" というクエリからでは目的の画像を高精度に検索することは困難でした.
そこで,本論文では,ユーザとの質問応答により目的の画像を絞り込むことが
可能なクロスモーダル画像再検索手法を提案しています.具体的には,データ
ベースから絞り込みに有用な情報を探索し,それらの情報を基にユーザとの質
問応答を行うことで再検索を行います.提案手法により,ユーザは曖昧なクエ
リや偏りのあるデータベースからでも,検索システムから提示される質問に回
答するだけで,目的の画像に到達することが可能となります.

今回,本報告を執筆させていただくに当たり,採録されるために工夫・苦労し
た点を記載して頂けるとありがたいという話がございましたので,少しだけ記
載させていただきたいと思います. 今回,私が発表させていただいた論文は,
CVPR 2021というトップカンファレンスにて不採択になった論文を修正し,ACM
MM 2021に再投稿した論文となっております. CVPR 2021の際には3人の査読者
全員からRejectの評価を受けた一方で,論文を改善するための良質なアドバイ
スをいくつも頂くことが出来ました.これらのアドバイスを基に,論文を改良
することで, ACM MM 2021 でのオーラル採択を頂くことが出来ました.CVPR
2021の査読を受けた際にはかなり落ち込みましたが,諦めずに投稿を続けて良
かったと感じています. また,ACM MM 2021での査読におきましては,最初は
程々の評価でありましたが,Rebuttal後にはより良い評価に更新していただけ
ました.これらのことから,自身の研究を信じ,一つ一つの査読に対して真摯
に質疑応答を行うことの重要性を再認識しました.

現代において,マルチメディア分野は我々の生活の豊かさに繋がる非常に重要
な研究分野です.今後,ACM MMなどの学会への国内からの投稿数・採択数がよ
り一層増加し,国内のマルチメディアに関する研究分野が発展することを願っ
ております.


(柳 凜太郎  北海道大学 大学院情報科学院 メディアダイナミクス研究室)

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■4■ ACM CIKM 2021 参加報告              原田 将之介 (京都大学)

2021年11月1日から5日に開催された The ACM International Conference on
Information and Knowledge Management (CIKM) に参加しました. CIKMはデー
タマイニング, 情報検索,データベースに関する研究を扱う重要な国際会議の
一つです. CIKM 2021 では, Full paperは投稿数1,251に対して採択数271(採
択率21.7%), Applied paper は投稿数290に対して採択数70(採択率24.1%),
Short paperは投稿数626に対して採択数177(採択率28.3%)でした. 他のCS系
の国際会議同様に, CIKM 2021 でもこれまでの投稿数を更新する投稿数であっ
たようで,機械学習を用いた技術に対する関心の高さが伺えます(2020年は投
稿数920, 2019年は投稿数1,030).

今年はオーストラリアのゴールドコーストでの開催が予定されていましたが,
昨今の情勢に鑑みて Zoom + GatherTownでのオンライン開催となりました. 口
頭発表は Zoom, ポスターセッションは GatherTownという使い分けです. 会議
への参加やビデオ公開等はunderlineというWebサービスを介して行われました.
発表形式は, 他の国際会議でも同様の形式が取られているところがありますが,
発表者は基本的には 1回目の発表, その12時間後の2回目の発表と合計2回発表
する必要があるというものです. 異なるタイムゾーンの参加者でも都合の良い
時に参加出来る仕組みになっています. 従って発表者はどちらか一方のスロッ
トでは深夜あるいは早朝に発表を行う必要があり, 少し大変かもしれません.
口頭での発表に続いてポスターセッションが始まり, 発表者はポスターの前で
待機するという形です.

今年度のBest paperはJianfei ZhangらによるRxNet: Rx-refill Graph Neural
Network for Overprescribing Detectionで, GNNを用いて薬剤の過剰投与を防
ぐ論文でした. 患者や医師, 薬剤, 薬局をノードと見立て, その際診療や薬の
受け渡された時間などをエッジに含めた時空間グラフを構築するといったユニ
ークな手法を適用していました. 問題設定の新しさや手法, ヘルスケアという
データの入手が困難な分野で実データを用いた大規模な実験が評価されたよう
に思えます. 会議全体としては Fairness や Selection bias, Privacy, Fake
newsを扱うデータマイニング系の論文が多かった印象を持ちました. Tutorial
やKeynote でもこのような分野に関する講演が多く, 高度な予測技術が一定確
立されてきた中で, いかに"正しく"技術を運用していくかといった点にコミュ
ニティの注目が集まっているように思えます. 個人的に特に興味を持ったのは
Jian Kangらが講演したFair Graph MiningというTutorialです. 重要なデータ
構造の1つであるグラフデータついて, 公平性を考慮する研究です. 比較的新
しい分野だと思いますが, 理論的な考察も行われており実応用の幅がある面白
い研究分野だと思いました. スライド等は公開されているので, 興味を持たれ
た方は是非ご覧ください.

https://www.cikm2021.org/programme/tutorials/fair-graph-mining

最後に私の研究を紹介させて頂きます.
GraphITE: Estimating Individual Effects of Graph-structured Treatments
というタイトルでFull paperに採択されました. 本研究では, 特定の行動(介
入)による効果を予測する介入効果推定について取り組み, その際介入がグラ
フ構造のようなデータを考えました.  GNN等によって得られるグラフの表現及
び介入を受ける個体の表現に対してHSIC正則化を適用することでバイアスのな
い結果が得られることを理論的に示し, また 2つの実データを用いた実験によ
って提案手法の有効性を確認しました. 提案手法が上手く働く状況を(あるい
は逆に上手く働かない状況も)設定し, 実験で検証することが重要だと感じま
した. また提案手法の立ち位置や貢献, 既存研究との差分を明確に主張してい
くことが採択に繋がるのではないかと思います.

CIKM 2022 はアメリカのアトランタで開催されるそうで, 今のところオンライ
ンとオフラインでのハイブリッドを予定されているそうです. 是非投稿をご検
討ください.


(原田 将之介  京都大学 大学院情報学研究科 鹿島・山田研究室)

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■5■ ACM ICMR 2021 参加報告          田中 公啓 (エムスリー株式会社)

ICMR 2021 に参加し,修士時代の研究発表を行いました.以下,会議・発表内
容の他,採択に至るまでの数多の苦難についてご紹介します.


[会議概要]
マルチメディア検索に関する国際会議である ICMR 2021 (The Annual ACM
International Conference on Multimedia Retrieval) が,2021年11月16日~
19日に開催されました.当初は台北(台湾)にて開催される予定でしたが,新
型コロナウイルス流行の影響を鑑み,インターネット上での完全バーチャル開
催となりました.私のように,社会人として働く隙間を縫って発表・聴講する
必要がある人間にとっては参加障壁が下がるため,却ってありがたい形式でし
た.

ICMRはその名の通りマルチメディア検索に主眼を置いたものであり,発表も物
体/行動の認識/検索から要約,推薦に至るまで,「適切な情報を探し,抽出す
るテクニック」についての幅広い研究で構成されています.マルチメディアな
らではですが,実際の画像や映像,テキストを用いた研究がほとんどであり,
より発表・デモが映えた,楽しいプログラムとなっています.

本会議に限った話ですが,台湾開催であるからか,東アジアからの参加が非常
に多いように感じました.


[自身の発表内容]
私は"Efficient Nearest Neighbor Search by Removing Anti-hub"という題で,
研究発表を行いました.昨今のディープラーニング大隆盛の傍ら,最近傍探索
アルゴリズムに着目した研究です(実際,本会議でもほぼ全ての発表が深層学
習を扱っていました).

最近傍探索においては,データベースから,クエリに最も近いベクトルを検索
しますが,実運用上,巨大なデータベースベクトルがメモリに乗り切らないと
いう問題がありました.

この問題について,ベクトル縮約を行う技術 (例: 次元削減や直積量子化) が
様々議論されてきているのに対し,我々は hubnessという指標を用い,ベクト
ルの「本数」を削減することで対処する手法を提案しました.実際,ベクトル
縮約だけでメモリ削減を行うよりも,縮約+本数削減にてメモリ削減を行うほ
うが,その後のクエリ検索精度が高くなることが実験的に示されました.もし
詳細が気になる!という方がいらっしゃれば,是非論文を読んでみていただけ
ると嬉しいです(コードも公開しています).


[採択までの歴史]
実は本研究は,これまで学会2回・ジャーナル2回の計4回落とされていました.
そして,初めて落とされたのが,ICMR 2020でした.偶然にも,1年越しにリベ
ンジを果たした格好です.採択に漕ぎ着けることができた理由は大きく 2つあ
ると考えています:提案手法のポジショニングと,学会選びです.

1. 提案手法のポジションを限定し,明確にした上で,徹底的にメリットを主
張する

当初は,省メモリ性に加え,検索速度の面でのメリットも訴求するような欲張
った論調で実験を進め,論文を執筆していました.「本数が少なくなるんだか
ら検索が高速になるよね,ついでにメモリも軽くなるよね」という主張です.
論文のページ数は限られているため,多くのメリットを訴求しようとすると,
それぞれの主張が薄くなってしまいます.査読コメントでも,「近似検索アル
ゴリズムで検索したら十分速いからデータ削減は不要」「○○○という次元縮
約手法とは比べないのか」のような意見が多数寄せられました.

そこで,本会議に投稿する際には,ガラッと方向性を転換し,高速化の文脈は
ほぼ切り捨てました.省メモリ性にのみフォーカスした上で,極力多くのカテ
ゴリのメモリ削減手法と比較し,徹底的に本手法の優越を主張しました.書き
方の工夫もありますが,「問題」「提案手法のポジショニング」「提案手法の
有効性」の全てが明確になり,かなりわかりやすい原稿になった実感がありま
した.

2. 適切な会議・ジャーナルに投稿する

不思議なもので,同じ内容を主張しても,相手の専門度,課題感によって,驚
くほど受け取られ方が変わってしまいます.

私の提案手法は,非常にシンプルでした.「いらないベクトルを発見して,除
去しよう」であり,過去の研究を幅広く積み重ねて改良し既存手法を超えてい
く方向ではなく,これまであまり触れられてこなかった領域に着目した上で,
ベーシックな手法で解決する方向での提案です.

これを,検索に限らないマルチメディア系・ビッグデータ系のジャーナルに投
稿した際は,「やっていることがあまりに単純すぎる」「これしかやっていな
いのか」という評価を受けました.一方,検索に特化した本学会では,「単純
明快で,とても良いね」という 180度異なった評価を受けました.これは憶測
に過ぎませんが,本学会で査読してくださった方々が特に検索に通じており,
問題意識や研究のポジショニングをより理解してくださったのではないかと思
っています.


[終わりに]
参加報告というよりも研究の振り返り色が強くなってしまいましたが,これか
らも研究を進めていく皆様にとって,少しでも参考になる部分があればと思い
ます.会議は,まさに世界最先端のテクノロジーが議論される貴重な場であり,
ここで発表者として身を置けることをとても光栄に感じました.新型コロナウ
イルスで生活が一変し,まだまだ先も見通せぬ昨今ですが,皆様におかれまし
ては是非お体に気を付けていただき,研究を進めていただければと思います.
どうもありがとうございました.


(田中 公啓  エムスリー株式会社 データ分析グループ)
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王 元元
山口大学大学院創成科学研究科
工学系学域・知能情報工学分野
(兼担:工学部知能情報工学科)
助教 博士(環境人間学)
y.wang [at] yamaguchi-u.ac.jp
circl.wang [at] gmail.com
0836-85-9522

Yuanyuan Wang, Ph.D
Assistant Professor, Department of Information Science and Engineering, College of Engineering, Graduate School of Sciences and Technology for Innovation, Yamaguchi University, Japan 
E-mail: y.wang [at] yamaguchi-u.ac.jp
        circl.wang [at] gmail.com
Tel: +81-836-85-9522