日本データベース学会

dbjapanメーリングリストアーカイブ(2014年)

[dbjapan] Newsletter Vol. 7, No. 6: CIKM2014, CEA2014, PhD Thesis Review


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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2014年12月号 ( Vol. 7, No. 6 )
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師走を迎え,なにかと気ぜわしい毎日が続きますが,皆様いかがお過ごしでしょ
うか.秋が短く一気に冬が到来したような寒さで,身の回りにも体調を崩された
方も多く,忙しさにかまけず体調にも気配りしていきたいと思います.

本号では,11月に開催されたデータベース,データマイニング関連のトップカン
ファレンスCIKM2014,日常生活に深く関わる食メディアを対象とする国際会議CEA
2014への参加報告,ならびに,今年度から開始した広報活動『学位論文紹介』の
ねらいなどを紹介しています.

本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見,あるいは次号以降に期待する
内容についてのご意見がございましたら,news-com [at] dbsj.org までお寄せく
ださい.

                             日本データベース学会 電子広報編集委員会

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目次
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1. CIKM 2014 参加報告  
        山口 祐人  学振PD 筑波大学

2. CEA 2014に参加して
        関 洋平    筑波大学

3. 『学位論文紹介』の企画・公開に際して
        佐藤 哲司  DBSJ電子広報編集委員会

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■1■ CIKM 2014 参加報告             山口 祐人 (学振PD 筑波大学)

2014年11月3日から7日にかけて開催されたCIKMに参加しました.データベースや
情報検索,データマイニング等に関するトップレベルの会議ということで,キー
ノートやチュートリアル等,とても充実していたと思います.採択率は20.9%
(175/838)だったようです.正確な数は発表されていませんでしたが,日本か
らも多くの方が参加されていました.開催地は上海で,予想通り空気はあまり良
くなく外にでる時はマスクをしていました.しかしそれ以外の点では食事もおい
しく,開催地はとても立派なホテルで,大変良かったと思います.

CIKMは幅広いトピックを扱っており,DBセッション,IRセッション,KMセッショ
ンに分かれています.去年と同様,今年もKMセッションの論文数が多数でした.
今年のKDDでも同様のことを感じましたが,今回のキーワードとしては"Deep
Learning","Knowledge Graph","Health Care"といったところでした.特に企
業の方のトークでは必ずと言っていいほどKnowledge Graphが登場していました.
また,最終日にもかかわらずDeep Learningのチュートリアルは満席になってし
まい,部屋を移動したほどでした.

今回一番楽しみにしていたのはGoogleのJeff DeanによるDeep Learningに関する
キーノートでしたが,期待通りとてもおもしろいトークでした.技術的な話には
あまり踏み込まず,Deep Learningを使うと何が出来るのか,何が出来るように
なったのかについて語っていました.Deep Learningが様々なタスクにおいて既
存手法を上回ったという話から,最近話題になっているword2vecの話,画像デー
タそのものを入力としてそのキャプションを出力するタスクまで,様々なアプリ
ケーションについて話してくれました.個人的な感想としては,画像そのものか
らキャプションを作るという技術に未来を感じました.まだ進行中の研究だとい
うことでしたが,いち研究者として期待せずにはいられません.

今回の私の発表は,ソーシャルメディア上に絶えず投稿されるテキストを用いて
ユーザの居住地を推定するというものでした.ソーシャルメディアユーザの居住
地情報は,レストランの推薦から感染症の分析まで幅広く役に立つとても重要な
情報ですが,プライバシ等の観点から多くのユーザは自らの居住地を公開してい
ません.そのため,ユーザ居住地の推定はホットなトピックの一つになっていま
す.居住地の推定に限ってはいませんが,実際,今回のCIKMでもLocWebという
Web上のロケーション情報に関するワークショップが開かれていました.私の発
表にも多くの人が参加し,たくさんの質問をしてもらえました.

実は今回の私の論文は他の会議で二度不採録となっており,ようやく採録された
ものです.諸先生方もおっしゃっているように,トップレベルの会議に論文を通
すには幾度となく修正していくことが重要だと再認識しました.せっかく良い研
究をしていても良い論文が書けなければ採録はされません.個人的な意見として
は良い研究をするのと同じもしくはそれ以上に,良い文章を書くことが重要だと
感じています.論文の書き方というものは実際に書いてみないと身につかないも
ので,このつらいつらーい経験を学生のうちにすることが出来たのは,必ず今後
の研究生活にプラスになると思っています.実際に論文を書き,いろいろな人か
らアドバイスをもらうというサイクルを何度も何度も何度も繰り返していくこと
が重要だと感じます.

来年のCIKM2015はオーストラリアのメルボルンで開催されるようです.来年はオー
ストラリアで開催される会議が多く,KDDやSIGMODなどもオーストラリアで開催
されるようです.これはデータベース系の研究者は来年はオーストラリアの地に
足を踏み入れなくてはならないということを意味しています.是非論文の投稿を
検討されてみてはいかがでしょうか.

                  (山口 祐人  日本学術振興会特別研究員(PD) 筑波大学)


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■2■ CEA 2014に参加して                   関洋平 (筑波大学 助教)

2014年9月14日に調理や食行動(食メディア)に関する国際ワークショップ CEA
2014 が開催されました.本年度の会場は,Motif Seattle (旧 Red Lion Hotel)
で,場所も良く,設備の快適なホテルでした.シアトルへの来訪は,SIGIR 2006 
でワシントン大学を訪問して以来,2度目です.当時はイチロー選手の全盛期で,
街の中に,電光パネルが大きく飾られていたりしました.現在は,表参道ヒルズ
で話題のククルザポップコーンの本店があり,日本人の観光客も多いです.気候
は快適で,治安もよく,夏に国際会議で訪れるには絶好の都市です.

CEA は,2009年から毎年開催しており,今回で6回目の開催になります.昨年度
までは,ACM や IEEE のマルチメディアの国際会議の併設として開催されていま
したが,今年度は,ユビキタスコンピューティングの国際会議 UbiComp 2014 の
併設として開催されました.20件の投稿があり,3人の査読者により評価された 
6 件の口頭発表ならびに,ポスター発表が行われました.論文は,ACM Digital
Library にて公開されています.夜には,食メディアをテーマとした会議にふさ
わしい,美味しい料理とお酒が振る舞われた懇親会が催されました.

本会議は,調理や食行動をターゲットとしたさまざまな分野の研究者が一堂に会
するという点で,興味深いものでした.特に,今回はユビキタスコンピューティ
ングの国際会議の併設となったことで,関連する発表がありました.Farah Arab 
氏(パリ大学)他による,「Design and assessment of enabling environments
for cooking activities」というタイトルの研究発表では,何百ものセンサーを
備えた台所環境を準備し,行動をモニタリングしながらレシピに基づく調理活動
を案内することで,認知障害のある人が一人で調理を遂行できるかという評価を
行っており,将来の調理環境のインパクトは大きなものでした.その他,ユーザ
の状況を考慮したレシピ検索,食材のオントロジー構築,食生活を健康にするた
めのソーシャルメディアの活用などの幅広いテーマを対象とした口頭発表が行わ
れていました.電子レンジの電力漏洩パタンを利用した料理の認識という,挑戦
的なテーマも興味深いものでした.

本会議の UbiComp は,学内の仕事の関係で短期間しか参加できませんでしたが,
スマートホームに関するワークショップ(HomeSys 2014)に参加しました.こち
らは,住環境に関する個人的な興味に基づく参加でしたが,まったく未知の分野
であったこともあり,新鮮な気持ちで発表を聞くことができました.食メディア
もそうですが,衣食住に関する生活に密着したテーマに関する研究は,素人目線
で聞いても大変に興味深く,楽しむことができました.

調理や食行動に関する研究は,専門的な関心を持っている方々が集まることで,
情報検索や言語処理などの技術分野における幅広いトピックを対象とした会議よ
りも,技術分野を横断した,深いつながりを持った議論ができます.今後とも,
こうした活動を継続していくことで,食に関するコミュニケーションや革新的な
サービスを対象とした研究が,国際的に発展していくことを期待しています.

最後になりますが,筆者らは,「Discriminating Practical Recipes Based on
Content Characteristics in Popular Social Recipes」というタイトルで,ソー
シャルメディア上の実用的なレシピを対象としたランキング手法について発表し,
Best Paper Award を受賞しました.本ワークショップに際してお世話になりま
した,相澤清晴先生,山肩洋子先生,船富卓哉先生に心より感謝申し上げます.

                       (関洋平  筑波大学 図書館情報メディア系 助教)


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■3■ 『学位論文紹介』の企画・公開に際して  
                                        佐藤哲司 DBSJ電子広報編集委員会

日本データベース学会では,会員サービスの向上とコミュニティの活性化を目的
に広報活動を展開してきておりますが,この度,若手研究者による博士学位論文
の紹介を企画致しました.この企画の主旨は,学位を取得して間もない新進気鋭
の若手研究者を学会内外の多くの研究者・技術者に知っていただくこと,また,
最新の研究成果を分かりやすく解説することでデータベース・データ工学領域の
発展に資することです.

この企画の趣旨に賛同いただいた12名の研究者からの学位論文紹介の記事を,第
1期分としてDBSJ ホームページに掲載・公開しましたので,ご案内申し上げま
す.アクセスは,

1)学会トップページ<http://dbsj.org/>
        → アーカイブ(右上 黒字に白抜き) → 学位論文紹介

2)直接 <http://dbsj.org/dissertation/>

のいずれかで一覧ページをご覧頂くことが出来ます.
各論文のタイトルをクリックいただくと,詳細な書誌情報に加えて,論文概要な
らびに学位を取得して想うことも執筆いただいております.学位取得までの道の
り,将来への抱負など,学位取得者の「人となり」も感じていただけることと期
待しています.

詳細ページの上部には,学位論文を分かりやすく解説した「概要PDF」へのリンク
を,最下行には,学位論文本体を保存している機関レポジトリへのリンクがあり
ます.特に,概要PDFは,この企画のために著者にお願いして,図表を含めて分
かりやすく,ある程度の基礎知識があれば専門家で無くても理解できるよう,学
位論文の内容を解説いただきました.この概要をご覧頂き,興味を持たれました
ら学位論文の本体にアクセスいただけると幸いです.


学位論文紹介のページ<http://dbsj.org/dissertation/>には,募集要項へのリ
ンクを用意いたしました.ご寄稿いただける方は,「学位(博士)取得後2年以
内の正会員(正会員への資格変更手続き中の者も含む)で単著」を原則としてお
ります.該当される方は,積極的なご寄稿をお待ち申し上げております.
また,詳細についてご不明な点,ご質問などございましたら,DBSJ電子広報編集
委員会 <news-com [at] dbsj.org>までお問い合わせ下さい.

この企画が若手研究者の活躍の機会増大と,コミュニティの活性化につながるこ
とを祈念し,積極的な投稿を歓迎致します.

                      (佐藤哲司 筑波大学 図書館情報メディア系 教授)

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