日本データベース学会

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[dbjapan] DBSJ Newsletter Vol.14, No.4: 若手研究者特集号


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┃ 日本データベース学会 Newsletter
┃ 2021年7月号 ( Vol. 14, No. 4 )
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本号では若手研究者の方々に対するインタビュー記事を企画しました.
データベース分野の研究に関わる方々にお願いしましたが,大阪大学,
ノーチラス・テクノロジーズ,NTTなど日本を代表する企業の方々から
ご寄稿頂きました.
研究者を志す若い学生の方のご参考になればと思います.

本号ならびにDBSJ Newsletterに対するご意見あるいは次号以降に期待する
内容についてご意見がございましたらnews-com [at] dbsj.orgまでお寄せ
ください.

日本データベース学会 電子広報編集委員会

(担当編集委員 藤原 靖宏)

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目次
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1. 大阪大学について
   天方大地(大阪大学)

2. ノーチラス・テクノロジーズについて
   田辺敬之(ノーチラス・テクノロジーズ)

3. NTTコンピュータ&データサイエンス研究所について
   新井淳也(NTT)

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■ 1 ■ 大阪大学について
                    天方大地(大阪大学)

Q.現在行っている研究を一言で教えて下さい.
A.データマイニング(クラスタリングや異常検出等)および問い合わせ処理
  (最近傍検索やJoin等)に対する高速アルゴリズムに関する研究を行って
  います.

Q.企業ではなく大学で研究を行おうと志したきっかけや理由を教えて下さい.
A.基礎研究が好きなこと,および,(基本的に)自分のペースで研究を進め
  られる・自分の望む研究を行いやすい,といった自由度が高いことが理由
  です.(私は企業での経験がないため,これらの理由が企業に当てはまら
  ないという意味ではありません.)
  また,基礎研究が好きな理由と関連しますが,技術の凄さ・面白さを追求
  できる環境にあることも私に合っているため,大学で研究しています.
  (一方で,その技術の価値を現場の実問題に落とし込むことや,事業展開・
  貢献していくことに関してはほぼ機会がないため,産学連携の重要さを感
  じています.)

Q.学生の頃の研究と大学の教員としての研究でギャップを感じたこととその
  理由を教えてください.
A.端的に言うと,マネジメント+効率(生産)性です.学生の頃は自分の研
  究に集中し,成果を上げることが全てと言っても過言ではありませんでし
  た.
  大学教員には,研究+教育への貢献も求められます.
  弊研究室に配属された学生の内の何名かは私のプロジェクトの下で研究を
  進めていますが,学生の研究に対する最終目標および目的は人それぞれ異
  なると思います.
  そういった中で私を含むプロジェクト参画者が全員ハッピーな状況にいる,
  ハッピーな成果を出すようなマネジメント力の必要性・重要性は日々感じ
  ています.
  また,マネジメントを言い訳にして自分が(論文で言うところの)筆頭で
  進める研究の進捗度合いが学生の頃から低下してしまっては研究者として
  良くないと思っています.
  如何に効率的に研究を進めて大きな成果を上げることができるか,につい
  ては教員になってから大きく意識するようになりました.

Q.取り組んでいる研究の中で達成感を感じたこととその理由を教えて下さい.
A.トップ会議・論文誌に採択された時はやはり達成感があります.
  少なくとも同じ(または似た)研究分野において第一線で活躍する研究者
  に自分の研究の価値・重要性を認めてもらえたと感じることができるため
  です.
  また,トップ会議に採択されることは,自分のプレゼンスや研究を多くの
  方の目に触れる機会の増加に繋がると思っています.
  こういったことが競争的資金等の獲得のバックアップにもなり得ますので,
  研究をする上で,このような「良い流れ」に乗っているときは節目ごとに
  達成感があります.

Q.学生の頃と比較して自分が成長したと思うことを教えて下さい.
A.研究的な意味で視野が広くなったと思います.広域な研究テーマは学生の
  頃から変わっていませんが,自分の研究のアウトプットがどれくらいの
  (規模の)アプリケーションに利用されるだろうか,をより強く意識する
  ことで,多くのドメインの研究に目を向けることが増え,より良い(と思う)
  研究テーマ選びに繋がっていると思います.
  また,先程の質問でも述べましたが,生産性も学生の頃から向上している
  と思います.

Q.今後に取り組みたいことを教えて下さい.
A.データベース技術はデータサイエンスにおける縁の下の力持ち的存在だと
  思っているので,縁の下に居続けることができる技術者・研究者になりた
  いと思っています.
  また,AI (ML) for DB や DB for AI (ML) といったキーワードが新しく
  なくなってきましたが,私の研究は DB for AI (ML) に関連しているため,
  大量データを扱うAI・ML技術者や研究者にとってなくてはならない技術を
  編み出していこうと思います.

Q.大学の研究者を目指そうとしている後輩にアドバイスをお願いします.
A.大学の研究者・教員には厳格な枠があり,なりたいタイミングで(自分の
  研究分野に関するポジションの)枠が空いていない,というケースも少な
  くありません.
  そのような枠が空いた時にそれを自分のものにするためには,自分にしか
  無い強みを持つことが必須だと思います.
  例えば,(大学のみならず)研究者を目指す学生は,博士号を取るまでに,
  問題発見能力+問題解決能力+(少なくとも国内では)誰にも負けない何
  かを得ると良いと思います.
  また,最近ではJSPSのDC以外にも,若手研究者(+学生)が応募できる競
  争的資金が増えています.そういったものに採択されれば,研究者ネット
  ワークは確実に広がりますので,積極的にチャレンジすることをお薦めし
  ます.

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■ 2 ■ ノーチラス・テクノロジーズについて
                 田辺敬之(ノーチラス・テクノロジーズ)

Q.現在行っている研究を一言で教えて下さい.
A.データベースにおいて大規模なバッチ処理を行ってもオンライン処理の性
  能を著しく劣化させない理論やシステムの研究開発を行っています.

Q.大学ではなく企業で研究を行おうと志したきっかけや理由を教えて下さい.
A.一つ目は,修士一年目において博士課程で早期卒業を目指すのに十分な論
  文業績を得られなかったという点があります.
  経済的な余裕が無かったため,就職して企業で研究を行おうと思いました.
  二つ目は,在学中に携わっていた産学連携のデータベースに関するプロジェ
  クトに,就職後も継続して関わり,研究開発ができるからです.
  学士四年生・修士二年間をかけて熱心に取り組み,培ったスキルや知識の
  土壌を活かせるのであれば,嬉しいと思っていました.

Q.大学の研究と企業の研究でギャップを感じたこととその理由を教えてください.
A.在学中に携わっていたプロジェクトに現在も携わっているため,仕事内容に
  大きくギャップを感じることはありませんでしたが,仕事の策定にはギャッ
  プを感じます.
  在学中は指導教員の先生に方針を決めてもらい,自身が肉付けすることが主
  要な活動でしたが,現在は自身で何を何のためにどのように作業するかを計
  画し,それを上司に対してメリットデメリットを含めて説明し,承認を経る
  プロセスが大きく異なります.

Q.取り組んでいる研究業務中で達成感を感じたこととその理由を教えて下さい.
A.就職してから,私の扱う技術領域は大きく広がりました.
  在学時から研究開発しているシステムにうまく統合できたときなどは,達成
  感を感じました.
  また,在学中と就職後では研究業務の詳細が異なりますが,在学中に行って
  いた研究業務が就職して半年後に難関な国際論文誌に採録されたときには大
  きな達成感を感じました.

Q.学生の頃と比較して自分が成長したと思うことを教えて下さい.
A.コロナの都合で就職してすぐからリモートワークであること,在学中に携わっ
  ているプロジェクトが現在も仕事であることから,仕事内容に大きな差分は
  無く,精神的な変化は大きくないと感じています.
  強いて言えば,自分で仕事を定義し,提案し,粛々と作業を進める自走力,
  精神的な安定性の向上は感じます.
  扱う技術領域が大きく広がったこと,チームの共有している開発環境を学習
  して恩恵を受けていること,先輩社員にレビューを受けていることなどから
  大きな技術的成長を感じています.

Q.今後に取り組みたいことを教えて下さい.
A.今後とも,データベースや高性能計算に関する研究開発の仕事に携わりたい
  と思っています.
  企業研究者を志した理由と重複しますが,具体的な課題の解決を強く意識し
  て仕事していきたく思います.
  また,機会があれば博士号取得にも挑戦したく思います.

Q.企業の研究者を目指そうとしている後輩にアドバイスをお願いします.
A.企業研究者と,アカデミアの研究者では性質が大きく異なると思います.
  在学中にその差分に深く気を払い,自身により適した方向性を選択していた
  だければ幸いに思います.
  また,幸福度に関して言えば,一緒に仕事をする仕事仲間たち,仕事内容は
  相関があると思います.
  可能な限り自身が就職したらどのような研究開発チームに配属されるのか,
  どのような仕事をすることになるのかを事前に調査することをお勧めいたし
  ます.

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■ 3 ■ NTTコンピュータ&データサイエンス研究所について
                    新井淳也(NTT)

Q.現在行っている研究を一言で教えて下さい.
A.NTTのLASOLVなど,非ノイマン型の新しい計算資源を活用するための計算機
  システムやアルゴリズムについて研究しています.

Q.大学ではなく企業で研究を行おうと志したきっかけや理由を教えて下さい.
A.私は修士卒で入社しました.その理由は打算的で,「もし大学と同じよう
  に研究を続け,将来博士号も取れるのだとすれば,お給料を貰えたほうが得」
  と考えたからです.
  しかし「~とすれば」の部分は不確実です.
  この点で決め手になったのはNTTでの夏期インターンでした.
  たった4週間ではありますが,配属された部署の雰囲気を味わうには十分な
  期間です.
  当時博士課程在籍中の社員もおり,修士卒で研究職に就く具体的なイメージ
  を掴むことができました.
  残る問題は配属です.
  NTTは情報通信全般を幅広く研究していますし,基礎研究と実用化の比率は
  部署によって異なります.
  配属先は入社するまで分かりません.
  不本意な配属を恐れ内々定後も就職と博士進学の間で迷っていましたが,
  最終的には「インターンで私の適性は会社に理解されているはず!」と判断
  して入社を選びました.
  結果的には希望通りの配属となり,後に博士号も取れました.

Q.大学の研究と企業の研究でギャップを感じたこととその理由を教えてください.
A.企業においては研究成果が「自分のもの」ではなく「会社の機密情報」にな
  るという点はギャップの一つです.
  外部の研究者との議論では話す内容に気を遣います.
  また,論文やその実装のソースコードを公開するときは会社の承認が必要です.
  NTTの場合,それらを単に公開するだけならば難しい説明はほぼ不要です.
  しかし新しい技術は原則として特許出願をするので,発表の数か月前から準
  備します.
  また,ソースコードのライセンスは会社が定めており,いわゆるOSSにでき
  るわけではありません.
  GPLやMITのようなライセンスで自由に使ってもらいたければ,特別な手続き
  で会社を説得する必要があります.
  こう書くと企業研究はデメリットばかりのようですが,メリットもあります.
  例えば,研究成果を現場で活用してもらう機会は企業のほうが多いだろうと
  思います.
  また,特許に名前を残すことができます.
  さらに,成果の評価によってボーナスが増えたりするのも企業ならではと言
  えるでしょう.

Q.取り組んでいる研究業務中で達成感を感じたこととその理由を教えて下さい.
A.学生だった頃と同様に,既存手法より圧倒的に良い手法を生み出せたときや,
  論文が採択されたときは達成感があります.
  さらに社内向けではありますが,構築したGPUクラスタが多くの社員に活用
  され,そこからトップ会議論文などの成果が生まれてきたときにもやりがい
  を感じました.
  研究所にいるとどうしても成果を利用する人との間に距離感があるので,
  作ったものを実用する人と直接対話できる機会は貴重です.
  また,尊敬できる仲間とチームを組んでクラスタの改善に取り組むことは心
  地よい体験でした.

Q.学生の頃と比較して自分が成長したと思うことを教えて下さい.
A.比較のうえではありますが,学会などで知らない人に積極的に声をかけられ
  るようになりました.
  学生の間は先生や研究室のメンバと一緒に学会に参加することが多いだろう
  と思います.
  話し相手や食事に行く仲間にも困りません.
  しかし私の場合,入社後は知り合いと一緒に学会に参加することはあまりあ
  りませんでした.
  有難いことに聴講で国際会議に派遣される機会もありましたが,一人でした.
  渡航費も給料も貰いながらただ座っているだけでは次の派遣はないだろうと
  いう適度なプレッシャーもあり,知らない人に声をかけて議論したり食事に
  誘ったりということが徐々にできるようになりました.
  そういったつながりで得た人脈は仕事にも役立っています.

Q.今後に取り組みたいことを教えて下さい.
A.最近はGPUやquantum-inspiredなイジングマシンなどCPU以外の計算資源と関
  わっていましたが,一周回って原点回帰し,CPUでどれだけ性能を出せるの
  かという点に興味が向かっています.
  社内ではそこに興味のある人材が散らばっているように感じるので,まずは
  つながりを作っていきたいと思います.

Q.企業の研究者を目指そうとしている後輩にアドバイスをお願いします.
A.一括りに企業研究者といっても企業や部署によって違いがあります.学生向
  けの会社紹介を見るだけでなく,ぜひ興味がある部署の人とやり取りしなが
  ら自分に合った環境を探してみてください.
  もし時間があればインターンに参加するのもお勧めです.

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